「期末は “遺伝” のところも出題するからよく覚えておくように!」




ええぇぇーーー!!





そろそろテストも大詰めで、今は生物の時間。私の手元には真新しい生物の教科書が。


結局無くなった教科書は見つからなかったので、買ってしまった。



けっこう痛い出費だったな…。



あれから数日たち、私の中で釈然としないことがあった。



それは笹原さんが私に言った言葉。






『もう少し自分の立場をわきまえたほうがイイんじゃないかなぁ?』


『じゃないとぉ、身の破滅になるよぉ?』





あの言葉の意味…。


あれから考えてみたけど、その意味はまだわからない。



そしてもう一つ、私には理解できないことがあった。



それは毎朝、下駄箱に入ってる大量のゴミ……。


最初はかなり戸惑ったけど、回数を重ねるたびに自分でも笑ってしまうくらい分別が上手くなってきている。



まぁ、それはともかく……。



いったい誰が?



何のために??



もう思い切ってちーちゃんと唯ちゃんに相談してしまおうか…?


でも二人共、自分のことのように心配してくれると思う。



だから尚更言えなかったりもする。



外をぼぉ~っと眺めながら、私は悩んでいた。







そしてお昼休みの教室。


三人でお弁当を囲み、ご飯を食べていると……。




「ねぇ!今、霧島くん登校してきたらしいよ!!」


「ウソ!どこにいるの?!見に行ってみる!?」


「久しぶりだよね!7組にいるかな~!?会いたいよね~!」





“霧島くん”





その名前を聞いてドキッ!と心臓が跳ね、体が熱くなってゆく。



「へぇ~、霧島くん今日来てるみたいだね?」


唯ちゃんもクラスの女の子の話し声が聞こえたのか、霧島くんの話題をふってくる。


「そっか!言われてみれば久しぶりだよね、霧島王子!!」



な、なんだろ……。



顔、あげられないや。



胸はドキドキと高鳴っていて、なかなか鎮(しず)まってくれない…。



すると唯ちゃんがそんな私を不思議がって、


「咲希ちゃん?どうかしたの??」


と問いかけてくる。


「へっ!!?べ、べ、べつに!?なんもないよ!!」


「唯ちゃん、野暮なコト訊いちゃダメよ~!霧島王子が来てるのを聞いて嬉しいのよね?咲希は!」





ドキィー





「あっ!!そ、そっか!咲希ちゃん、そんなにも霧島くんのことを想って………!!素敵ッ!!!お姫様が王子様を待つかぁ~、ロマンチック…。」


「ちょっと!?ななななにをさっきから!!」


「そうよね!待ち遠しいわよね、それは!ウンウン。仲良きことは美しきかな。」


ちーちゃんが満足そうに頷いている!




う~。



この二人からもからかわれるとは……。


とほほ。





すると、





「今行くのはやめたといた方がいいよ!さっき霧島くんを見かけたら笹原さん達といたから!!」




え……?




霧島くんの話をしてた女の子達のもとに別の子が話に加わってきた。


「ゲッ!またぁ!?あの子たちがいると睨まれるんだよね~。」


「近づきたくても近づけないしねぇ~、とりまき軍団がいるとさぁ~。」


「そうそう!聞いた話なんだけど、この前なんか笹原さん達、3年の先輩シメたって噂だよ!?」




……え!!?





うそ!!





一瞬耳を疑ってしまうっ!!


ちーちゃんと唯ちゃんも顔をあげ、その子たちの方を凝視している!


「何それ!?どういうこと!?しかも先輩って!?」


「ほら!前に “霧島くんが雨の中、女の子と寄り添って歩いてた” って言い出した3年の女の先輩だよ!!」


「え”!!なんでその先輩!??あれからけっこう時間経ってない!?しかもそれで何でシメるわけ?!」


「その先輩、前に霧島くんに何回か告白したらしいんだけど、断られたんだって!それでその腹いせと、自分に構ってほしいからって、その先輩がデタラメ言い出したとかって笹原さん達がいちゃもんつけたとか…!!それでリンチしちゃったとかで………!」


「なにそれ!!!シャレにならなくない…!?」


「そこまでするかな……、普通…。」


「明らかにやり過ぎでしょ!!怖っ!!霧島くんもよくそんな人達と一緒にいるよね……。」



その話を耳にして、思わず三人で顔を見合わせてしまった…!!



さっきまで霧島くんに対してドキドキしてたのに、
今は心臓が嫌な音をたてている!



「咲希、あんたは今のところ大丈夫よね……?!」

「え………?」


「その、何もされてないよね?笹原さん達に……。」



二人に訊かれ、私は咄嗟に “大丈夫だよ!” と笑顔では言えなかった。



それはあの言葉が瞬時に思い浮かんだから……。






『身の破滅』






この言葉は “もうこれ以上霧島くんに近づくな” という警告だと。



それをこの時、初めて気づいたのだから。