お店を出て、そのまま霧島くんと手を繋いで駅への道を歩いていた。


霧島くんが私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる。



霧島くん……お店から出てきちゃって良かったのかな!?


後でマリコさんに相当叱られるんじゃ……。



少しずつ心配になってきた。


「霧島くん!お店、戻ったほうがいいんじゃない?マリコさんに叱られちゃうよ!?」


すると彼はピタッと歩くのをやめた。



そして一言。


「咲希は、今日何であの店に来たんだ。」



え…。




そう言って振り返った彼の表情は、真剣そのものだった!


彼のその鋭い瞳を見てドキッと鼓動が跳ねる。



「えっと……その……。」



予期せぬその唐突な質問にかなり戸惑ってしまう。


すると霧島くんがポツリと私に投げかけた。


「珈琲を飲みたかったからか?」


「そ…れは…正直……考えては…なかったです……。」


霧島くんに嘘は通じないと思い、正直にうちあけた。



でも霧島くんの追求はまだ終わらず……。



「じゃあ、ジジイに会いにきたのか?」


「そ、それは無いです!だって、マリコさんとは今日が初対面ですし…。」


「じゃあ、何しに来た?」



うっ…。




ストレートな彼の言葉が核心をついてくる!




だって!


まさか霧島くんに本当に会うとは思ってもみなかったし、
できれば会わずにお店を一通り見て帰ろうと思ったから…。


焦りにも似た感情が体中をめぐり、緊張が全身を襲う。



でも、どうしよ!


まさかこんな質問されるなんて!



逃げられないよ…!






『正直な想いを理人にぶつけてみな?』





あ……。



ヤスさん。




ふとヤスさんの言葉が蘇る!



そうだった…。



私、何やってるんだろ……。


自分の気持ち誤魔化すようなことして。



そんなの……



自分が苦しくなるだけなのに。



霧島くんの瞳をもう一度見る。



その瞳は私の本当の答えを待つ、真っ直ぐな瞳だった。



そうだよね……ぶつけてみないと!!




…………よし!




「…き、霧島くんに昨日バイト先の名前を聞いて、どういうお店なのか興味があったのと……、」


「ふーん。で?それから?」


そう私に問いかけながら、壁にもたれる。



「そ、それから……、」



それから……私は………。



どうしてお店に行こうと思ったのか、どうして興味を持ったのか。



それは。




答えは、ただひとつ。





「私は…ただ貴方に会いたかったんです。霧島くんに…。」





そう。


それが私のコピ・ルアックに来た本当の理由。


霧島くんに会いたいという気持ちが心の奥底にあって、それが原動力になったんだ。





私は、貴方に会いたかった。





キスされたことが恥ずかしくて心に余裕がなくても、
どんな顔して会えばいいのかさえわからなくなっても、


私は…彼に会いたかった。



その想いは決して揺るがない事実……。



だから堂々と言える。


「ーーっ霧島くんに会いたくて来てしまいましたっっ!!!ごめんなさい!!」



そう言って、深々とお辞儀をする。



「……………………。」


うっ。


何も反応が無い……。



や、やっぱり、迷惑だったかな!?


短いけど長い時間が二人の間を通り過ぎてゆく。



沈黙に耐えられなくなった私は、恐る恐る顔をあげて霧島くんを覗き見ると……。




あ、あれ??




霧島くんは私を見たまま固まってしまい、まるで石像のようになっていた……。



「あの………霧島くん…?」


「……………。」


呼びかけても反応が無い…。


私は繋いだ手を、クイクイと引っ張ってみる。



「っ!!」


あ!


反応アリ!!


「霧島くん、あの、どうかしました?」


「え……あ、いや。……………。」


あれ!?



また黙っちゃったよ!!



なんか心ここに在らずという霧島くんの態度が気になってしまい、
不安になって彼についつい尋ねてしまう。


「あの………さっきの私の話……聞いてました…?」



カミングアウトしたのに、まさか聞いてなかった…なんてことはない……よね?!


耳に入ってなかったらさすがにショックだな。


せっかく勇気出したのになぁ…。


すると霧島くんがハッとして、急に喋りだした!


「なっ!ちゃんと聞いてたって!!しっかり!!だから、その……まさかそうハッキリ言われるとは思わなくて………ビックリしすぎて………。悪ぃ。」


「え!!いえ、あの、そんなことは………!こちらこそ、なんだかごめんなさい…。」



なぜかお互い謝り合い、わけがわからない状況に…!




すると。




「……ククッ。なんで俺ら謝ってんだろうな。ハハッ」


「ふふ。そうですね!あはは」


互いの手を握り、しばらく私達は笑い合っていた。



通りを行き交う人がチラチラとこっちを見てくる。



でもそんなことは気にならなかった。




「でもほんと、悪かった。ムキになって。俺さ、単に妬いてたんだよな…。」


「え…?妬いてた?何に??」


「ん?……さぁ。なんだろ?」


「え!?何それ!」


「さぁ…?なんか言った?」


「っ!霧島くん!!」


「ハハハッ!やっぱし面白いな。」


「もう!!またそうやってからかう!!」



私をからかうのは相変わらず…。




でもね、霧島くん……。


今日会えてよかったよ。


会えて嬉しかった!



そんな心の声が彼に届いたのか、霧島くんは笑顔で私にこう言った。





「今日咲希に会えて嬉しかった。好きだよ。」