「ただいまー」



夕方、陽がおちて辺りはもう薄暗くなってしまい、急いで家に帰って来た私。



学校から片道歩いて30分。



小さな2階建ての一軒家が我が家だ。



玄関で靴を脱いでいると、




ドダダダダダ




「おっかえりーー!」



勢いよく弟の涼太が笑顔で走ってきて迎えてくれた。


「涼太、いい子でお留守番してた?」


「あったりまえだよ!僕もう3年生なんだから!」


「そっか。ごめんね、急に学校の用事を頼まれちゃって遅くなっちゃった。」


普段、弟は学童保育に預けられているけど、今日は私が早く帰ってこられるため、家に居たのだ。



「用事ってなに?もしかしてデートとか〜?姉ちゃんにもついに ''おとこ’’ ができたのか!」


と、おませな涼太は私をからかってくる。



「そんなわけないでしょ〜?くだらないこと言ってないで、夕食の準備手伝って!」


「はぁ〜い。」


そしてまたバタバタと廊下を駆けていく。





「あ!そういえばさ!僕、友達がまたできたんだよ!つぎの休みの日にウチにあそびにきてもいい?」


「へ〜、また友達ができたの!すごいね、涼太は!いいけど、なんていう子なの?」


「えっと。トモキと、ショータと、リヒト!」


「凄い!三人もお友達ができたの!?」


へへーん。と胸をはってどうだ!とばかりポーズをきめている。



「なかでも ''リヒト” ってやつがさ、足がすんげー速くてさぁ!クラスで一番なんだよ!」


そっかぁ〜。


涼太もやるな〜。



しみじみと思って、野菜を洗おうとしたとき…、



ん?




りひと?




その名前が頭の隅でひっかかる。




そして……、




『理人のバカーー!!!!』





「あっ!!」



お、思い出した!!!


りひとっていう名前……。


今日放課後で偶然目撃してしまった男の先輩の名前だ!!


「な、なんだよ、姉ちゃん!いきなり大きな声だして。」


「…え?…あ!な、なんでもないの。ちょっと買い忘れたものがあったなぁって!」



はぁ〜。



そうだった……。



それで私その後、その理人先輩に、見られちゃったんだよね…。



私が4階から先輩の方を見てたのを……。


当たり前だけど、気づかれたよね、会話を聞かれてたこと…。


それにしても、

今さら冷静になって考えてみると、あの髪色…。



けっこう派手だったような。



それに、どこかで見たことあるんだよね…。



う〜ん、どこだったかなぁ?



陽の光にあたってるからか、キラキラと綺麗なオレンジ色に輝いてて。


ん〜、でも4階からだったし、しかも真下にいたから頭くらいしか見えなかった。だからその他の印象が全くない。


だから顔もよく見てないし…。


こっちを見たといっても私がすぐ顔をそらしちゃったし…。



ただ。



こうしてよくよく考えてみると、先輩なのはたぶん間違いない!



だってあの派手な髪色だし。



……でも。




なんだか、雰囲気からしてちょっと怖そうな先輩だったな。



女の先輩、最後は泣いてたみたいだし…。




なんだか不良みたい。




……不良だったりして?




あはは、まさかぁ〜!



………。




……………。




不良っ!!?




うそっ!!!




「姉ちゃん。どうしたんだよ?手がとまってるぞ?」


涼太の声は右から左へ……。



もしそうだとしたら、



どどどどうしよう!!



も、もし、あの理人先輩が不良なら、


わ、私、



明日 ''呼び出し’’ というものをされるんじゃ……!



で!その後どうなるの?!



どうなっちゃうの?!!



「姉ちゃん、どうしたんだよ?」



すまきにされて川に放り投げられるとか……?!


お、恐ろしい。



恐ろしすぎる!



私の不良への妄想は尽きず、その日の夕食はなかなか出来上がらなかった。