「あのさ……。今度俺が咲希にこの花贈ったら、その、受け取ってくれるか…?」


「え!!いいんですかっ!?」


思いがけない霧島くんの申し出に食い付いてしまった!



と、その時、




霧島くんの動きが完全に止まった!



「え……………………………本当にいいわけ?」


「ハイ、嬉しいです。あ!そうしたら私も霧島くんに、このお花プレゼントしようかな?なんて…」


「は!!?ウソだろっ!?」




?!!




今度は霧島くんが私を見て、驚きのあまり呆然としている…。



へ??



私、何か変なこと言ったかな?!


半分冗談だったつもりで言ったんだけど。


だって不良の霧島くんがお花を愛でてる姿なんて、ちょっと想像できないし、
霧島くん自身貰っても絶対嬉しくないと思ってたから、


その反応は……正直驚きだな。



でも本当に贈ったら霧島くん、喜んでくれるかな??



でも意外だな……。


私にお花を贈ってくれるなんて。


霧島くんってもしかしてロマンチスト?


でも私がブーゲンビリアをあんなに好きだって言ったから、
もしかして霧島くんなりに気を利かせてくれたのかもしれない!



……………と、いうことは。



私、霧島くんにねだったことになっちゃうっ!!!



「霧島くんっ!やっぱりお花、遠慮しておきます!」



すると霧島くんが瞬きひとつして、



「は!?今度はいらない!!??」


と驚愕していた!



ハッ!!



言い方がストレートすぎたかも!!


「あ、あの!ブーゲンビリアってけっこう値段高いですし、霧島くんに買って頂くなんて私、かなりでしゃばったことをしてしまったので!!だ、だから、」


「ストップ。」



え……!!



私の唇に彼の人差し指が当てられた!


「そういう理由なら俺は了承できねぇ!だが、俺に贈られんのが嫌ならこの件から手を引いてやる。どっち?」


ゆっくりと指先が離れていき、私の答えを真剣な眼差しで彼は待っている…。


それは建前を許さない、本音の答えしか受けつけない雰囲気だ。


今の私はまるで、霧島くんの瞳に捕らわれてしまったかのように、彼から視線がそらせない!



逃げられないけど、



……嫌じゃない。



「私は……霧島くんから貰いたいです。」



これが私の本音。


霧島くんからプレゼントされたい……。


私の好きなものを。



そう思ったら、なんだか少し泣けてきた…。



胸がキュッとなる。


こんな感覚……私知らなかったなぁ。


頭の片隅でふとそんなことを思っていた。


「ん。よし、いい子だな。」


と、霧島くんは私の頭をポンポンと優しく撫でてきた!




ドキッ!




あわわわ。



なんだろ!?




やっぱり触られると落ち着かないやっ!



でも、霧島くんの満足そうな笑顔を見て、
私も自然とつられて頬がゆるんでいった……。


「ま、そういうことで、いつになるかは未定だけど、絶対贈らせてもらうからな?で、必ず受け取れよ。」



え?!……未定!??



どうして先が見えないんだろ!?


「あ、あの、今じゃ駄目なんですか?ちょうど最盛期だし!今日の帰りとかでも、」


“いいですよ?” と言おうとしたけど、霧島くんを見たら言葉が止まってしまった!



「………咲希。男が女に、しかもブーゲンビリア贈んの……意味わかってるよな?」


疑わしい顔でこちらをみていた霧島くんに、何も言えなくなってしまった……!!


「え!??いえ、その、な、何でしょう…か?」


そう呟くと、


ガクゥーーーッと霧島くんがうな垂れてしまったっ!!!



「ど、どうしましたか?!気分でも悪くしましたか!?」


霧島くんのあまりの変わりように私は心配になり、
遠慮がちに彼の顔を覗きこむ!


するとバッと顔をあげ、机に頬杖をつきながらこちらを眺めてくる……。



なぜか、恨めしそうに…!


「そっか……。咲希は天然だとはわかってはいたけど、油断してた………ここまで手強いとはな……。マジだとなかなか上手くいかねぇもんなんだな……。他のヤツらもこんなに苦労してんのか…?わかんねぇ。」


そして何やらブツブツと独り言を言い始めた!!



ど、ど、どうしちゃったんだろ、霧島くん……!?



ネジが吹っ飛んじゃったみたいに勢いがなんか無いよ!



……………。



あ!!



そうか!



休憩とってなかったよ!



それは疲れちゃうよね?



ごめんね、霧島くん。



気づいてあげられなくて!


「霧島くん、とりあえず休憩とりませんか?私、ちょっとお手洗いに行ってきますね?」


「お手洗いって便所だろ?いってらっしゃい。待ってるからさ。」


頬杖をつきながら笑顔でヒラヒラと手を振ってくる霧島くん。


「なっ!お、お手洗いです!!」


また意地悪な霧島くんに戻り、私はプリプリと怒りながら歩きだした。


そしてふと思う。



また元気な霧島くんに戻ったみたい?


やっぱりちょっと疲れてたんだな~。






そんな風に考えて歩いてゆく咲希を、理人は呆然と見ていた。



そして。



「大好きな花なら“ 花言葉” くらい知っとけって……。」


そんな呟きは、咲希には届くわけもなく、空気に溶けて消えていった……。



理人の近くには一組のカップルがいる。



「僕の眼にはもう君しか見えないんだ!花子さん!」


「も~、やぁだ!太郎さんったら!」



理人はそんなカップルを見て、ある花言葉を囁く。




「 あなたしか見えない ……か。」