「え……?」



ふいに背後から声がして、振り返るとそこにいたのは……!



「やっぱり鳴瀬さんか。また会ったね。…俺のこと覚えてる?」



こ、このお方は…!



確か、ヤスさん!!!



すらっとした体形で、かつ存在感のあるオーラを放っている!



そしてなによりのトレードマークは、


彼のスキンヘッド!



そんなヤスさんの突然の登場に、
ちーちゃんと唯ちゃんは振り返った格好で、完全にとまって金縛り状態になってしまった!



「こんにちは。陣内康春っていって、周りの奴らからは “ヤス” って呼ばれてる。……突然声をかけたから、三人ともびっくりさせちゃったかな?」



ハッ!!



いけない、何か反応しないと!!



ヤスさんのその外見とは真逆ともいえる穏やかな声が聞こえてきて、私は慌てて返事をするっ!


「い、いえ!そんなこと!……あ、改めまして私、鳴瀬咲希です!!そして、友達の二ノ宮千枝ちゃんと高杉唯ちゃんです!」


ベンチから立ち上がって、ヤスさんにお辞儀をする。


「ハハッ。こんにちは。礼儀正しいんだね。わざわざ立たなくてもいいのに。」


と、ヤスさんは何やら楽しそうに笑みをこぼしていた。


「あ……。そ、そ、そうですか…!」



カァ~~っと恥ずかしさで顔に熱が集まってきてしまった…。



ハハッ!と、またヤスさんに笑われてしまい……、



「なるほど…。これは理人が気になっちゃうわけだ。」



と、優しい顔つきで私を見て言った。




え?



霧島くん??




するとちーちゃんの金縛りが解けたのか、急に声をあげた!


「え!!?それ、どういうことですかっ!!?やっぱり霧島くんは咲希のこと、友達以上に思ってるってことでいいんですよね!!?」


そんなちーちゃんの発言に、ヤスさんは一瞬面食らったかのように、きょとーんとしていたけれど、

何かに気づいたみたいで、ちーちゃんに笑顔を向けた。



「そっか…君だったんだね、さっきの声は。君たちの会話、聞くつもりは無かったんだけど、中庭に出た途端、丸聞こえで……!で、よ~く見ると鳴瀬さんの姿があったから、話の途中で悪ぃと思ったんだけど、声をかけちまったんだ。でも、わざわざ中庭で女子が たまってるってことは………内緒話…だよね?それにしては、内緒話になってなかったからさ。」



へ!?



ま、丸聞こえ!?




さっきの会話が全部!!?




クククッ……と、

ヤスさんはおかしそうに笑っている。



ちーちゃんもヤスさんの指摘に、顔を赤らめて“ウソッ” と両手で口元をおさえた!


「まさか、全部聞こえちゃってたなんて……やっちゃったね……。」


唯ちゃんもほのかに頬を染めて、俯いていた。



そっか……。



だからヤスさんはそれをわざわざ知らせに声をかけてくれたんだ!



「あ…ありがとう…ございました……。」



恥ずかしさの中で懸命にお礼を言う。



「ハハッ、どう致しまして。」


ヤスさんは屈託無く笑うと、話題を変えた。


「……それより、ひとつ聞きたいことがあるんだけど、さっき鳴瀬さんが言いかけてたこと、あれ本当なの?」


「え??……と、申しますと!?」


「あれ?確か…鳴瀬さんが理人と友達になった!って、さっき言いかけてたよね?」



あ!




そのことか…!!




すると両側から



「「ええぇぇーーー!!?」」



とまた悲鳴がっ!!



ちーちゃんと唯ちゃんが驚きとショックを受けたような顔をしている…!!



今の悲鳴で耳がキーンとなってるけど、
私は続けてヤスさんに返事をした。



「は、はい!その通りです!」


「友達になった…ってことは、理人と親しくなったってことだよね?」


「そ、そうですね…。霧島くんが、私と前から話をしてみたかったって言ってくれて…、それで私も仲良くしてくださいと申し出まして……!それで友達にならせて頂きました!」



その言葉を聞いて一瞬ヤスさんが目を丸くしたけど、
すぐに表情を戻して話しを続ける。


「そっか。それなら良かった。理人が随分悩んでたみたいだったから、それを聞いて安心したよ。」


そう言ってヤスさんはフッと笑みをこぼした。


え?


安心??



私が首を傾げた意味がわかったみたいで、ヤスさんが言葉を付け足す。


「実をいうと、理人が鳴瀬さんを怯えさせているのを、本人けっこう気にしててね。って、理人は口がさけてもそんな悩み、周りの奴らには言わないし、平然としてるけどさ。でも、俺から見たら丸わかりで…!」


と、ヤスさんはその光景を思い出してしまったみたいで、

笑いをこらえていた。


「まぁ~とにかく、二人が親しくなって良かったな~と思ってさ!ほら、俺たちってこんなナリしてるから、普通の女子じゃ恐がるのもわけないなと思ってね。」


そ、そうだったんだ!!



霧島くんがそんなことを気にしてたなんてっ!!



全然知らなかった……。



「とにかく、鳴瀬さんに恐い思いをさせたくなくて、アイツなりに必死でさ。だから見てて応援してあげたくなったってわけ!」


と、ヤスさんは大きく伸びをして、それから深く息をはいた。


「あ、ちなみにこのことは理人には内緒な?」


と、ヤスさんが人差し指をたてて私たちに向かってサラッと言った。



その仕草が同級生とは思えないほど、
妙に大人っぽい仕草だった……。