「す、すみません!これください」


ごった返している中で、やっとパンをつかみ取り、会計のオバちゃんにパンを渡す。


「ハイ、毎度!」


お会計を済まし、おばちゃんが笑顔でパンをビニール袋に入れてくれた。


よかった~、まだパンがあって…。


それにしても購買って人気あるんだなぁ。


こんなに人がいるとは。



よくよく見ると、1年生が多い。


ネクタイやリボンの色が赤で、私達1年生の学年カラーだから見分けやすい。


ちなみに、2年生が青で、3年生が緑。


ジャージの色も学年カラーだから、とてもわかりやすいんだよね。


でも私は、色の分別よりも先に、その人の身なりや雰囲気で直ぐに上級生だということはなんとなくわかってしまう。


1年生はまだ初々しさがあるけれど、先輩たちはそれに比べて制服をずいぶん着崩している。


格好は他の高校と比べたら、けっこう派手な方だと思う。


髪の毛は半数近くの人達が茶髪で、指定じゃないワイシャツも着ていたり、
制服を自分なりにアレンジしている先輩が大半だ。



そんな先輩たちを見て、憧れない1年生はいなくて…。



周りを見るとみんなキラキラしてて、すごくおしゃれだ。


まぁ、うちの高校の校則がかなり緩いのが原因だと思うんだけどね。


そんな校風よりも、一番自宅に近いという理由で、この公立高校を受験した私はどちらかというと目立たない生徒だと思う。


髪も黒いしストレートだし、飾り気が無いんだよなぁ…と、我ながらしみじみ思う。



ちーちゃんみたくおしゃれさんで可愛ければなぁ~……。



廊下を歩きながらそんなことを思い、悩める乙女ゴコロ真っ最中の時だった!





「お!!可愛い子ちゃん、見っけーーー!!!」




ドン!と、強い衝撃が私に!!




え!!



何!!?



何が起こったのかわけがわからなくて、
私は数秒間声も出せずその場で固まってしまった!



「おーい、何やってんだよ准平~。まぁーた女漁りかよ。」



ど、どうやら……、



私は誰かに横から抱きつかれているみたい……。



…え!?



抱きつかれてる!!!




それにこの方は、誰?!!



「だぁって、すっごい美人だったからさ!背も俺よりちっさいし、なんか抱きつきたくなっちまったんだもん!」



ハイ?!



び、びじん??




って、誰デスカ?!



「准平より背が低いっつったって、2cm位しか差がねーんじゃね?」


「だな!そんな変わんねージャン!」



ギャハハハ




そんな笑い声が複数聞こえてくる…。


「う、うるっさいなあ!!身長は大事じゃんか!」


私に抱きついている男子は、会話からすると、ジュンペイ…という男子らしい…。



えっと…私の知らない人だよね?!



せ、先輩かな…??



同級生な感じはしない……。



「お前が無駄に小せぇのが、悪いんだろっ。」


「にしても、……。確かにこの子、べっぴんだな!」


と、けっこう…というか、かなり派手な男子が私の顔を覗きこんでくる!



ひぃ!



ち、近い!!



というか、准平先輩(?)もかなり近い!!



「ダメだって!!この子は俺が見つけたの!渡さないかんなあ~。」



ひぃぃっ!



准平先輩が私に顔をすり寄せてきた!!



「キャア!!」


思わず悲鳴を上げてしまった。


「は、はは離して下さい…!」


顔が真っ赤であろう私は、必死になって体をよじった。


「…めっ、めっちゃ可愛いーー!!何そのピュア的反応~~!俺、もう離さなーいっ!!」


そう言ってギュッと抱きしめてくる。



う、うそ!!



や、やだよ!



離してほしい!



「お、お願いします!離して!!」


恥ずかしくて、顔から火が出そうで、パニックで、

少し涙目になってきたその時……!




「お前ら、何してんの?」




後方から地をはった低い声が聞こえてきた。



一気にその場の雰囲気がガラリと変わる!



「あ…、り、理人さん」



今まで明るくはしゃいでいた准平先輩の声のトーンがやや下がった。



「え、えっと……。あ!ほら!可愛い子見つけちゃったんで、思わず捕獲~っていうか!」


「その子嫌がってるだろーが。離せ。」


うっ…。と、呟いてようやく准平先輩は離してくれた。



はぁ~~。



よかった…!


ほっとしてため息が出てしまった。


助けてくれた人にお礼が言いたくて、声がした方を振り向くと……。



なっ!!!




高いっ!!



180cmはゆうにあるんじゃないかと思われる背丈と、オレンジ系の脱色した髪。


少し下がったズボンに、左耳にはシルバーのピアスが揺れている。


そして眉間にシワをよせ、こっちを睨んでくるこの威圧感は………!!



ま、間違いない!!



この人って、ふふふ不良……?!



そう確信した途端、今度は顔が青くなっていくのが自分でもわかる。


何よりも身にまとっているオーラが、半端なく……



こ、怖すぎる!!!



というか…



冷静になって、さっき私をからかってきた准平先輩を見ると…。



こ、この人も金髪でピンクのメッシュが入ってる!!



そ、それに、耳には無数のピアスがっっ!!!



ま、まさか、この人も…不良の一味では!!?


他にも、壁によりかかっている数人の男子生徒がカラフルな色合いでキメている。



こ…これは……私の知らない世界……。



思わず息を飲む…!



「つーかお前ら、こんなところで油売りすぎ。運良く見つけられたからいいものの。」


「すまない、理人。待たせて悪いな。さっき蓮に会ってな、こいつらと一緒だったから挨拶させてて遅くなった。」


と、一人の不良生徒が言った。


「ヤスはこう言ってるが、准平はどうなんだ?」


「お、俺もヤスさんと一緒だぜ!?理人さん!」



「……で?他には?」



と、私をチラッと見た!!



ドキッ!と心臓が跳ねて、ひやりとしたものが背筋を伝った…。



「だ、だから別に、ずーっとその子に抱きついてたわけじゃないって~!いや、そりゃ~まだ抱きつき足んねーけどさ~〜。」



「アァ''?!」



そのひと睨みで准平先輩がシャキンと背筋を伸ばす。


こ、こここ怖い。


ど、どどどうしよう。



私、とんでもない人達にからまれちゃったよ!



こ、ここはとりあえず…、



そうだ!


逃げよう!!!



私がパニックになってる間に、准平先輩を睨んでた不良の先輩が私の側に来て…、



「…つ、連れが、その。わ、悪かったな。アンタに何かし…」



「たたた助けて下さって有難うございました!し、失礼します!!」



と、不良サイドの話を遮り、


勢いよくお辞儀をして、振り返らずその場を全力疾走で逃げた。



「え?!あ、おい!」



そんな声が聞こえてきたけど、もう、その場にいるのは耐えられなくって、


逃げるのに必死な私であった。



そう。大事なパンをその場に残して……。