笹原さん…。



私はなんとも居たたまれないその光景を目にして、
思わず顔を背けてしまった…。



するとそんな私の気持ちを察したのか、
霧島くんがポンポンと優しく頭を撫でてくれる。


「咲希が気に病むことなんかない。」


「霧島くん…。あ、ありがとう。」


「ん。……じゃあ、行くか。」


「…へ?行くってどこへ……って!!」


霧島くんが私の腰と膝裏に手を添えると、フワッと体が浮かんだ!



え!!



また!?



そう思うのと同時にまたもや霧島くんの肉体へと視線がいってしまうっ!!!




ぎゃああぁぁ!!!



「わわわ私、歩けるのでおろして下さい!!こ、これだと霧島くんに甘えてばかりになっちゃうので!!」


「別に甘えていいけど。俺の咲希だし。」


「っ!!!じゃ、じゃあ、せせせめて服を着てほしいです!!わ、私のジャージを貸すので…」


「はいはい。」


と言いつつも、霧島くんは私を抱きかかえたまま、
校舎の真向かいにある別棟へと進んで行く!


ふと見上げると霧島くんと目が合い、
彼から余裕たっぷりの笑みが零れていた!




ハッ!!




この表情はまさか、



いじめっ子霧島くん!?



「…まさかとは思うけど、私の反応見て楽しんでますね!?」


「さぁ。どうだろ?」


「むっ!た、楽しんでないで、早く霧島くんの怪我の処置を…」


「わかった、わかった。だからさ、少しの間だけ大人しくしてくれない?咲希が暴れるたびに色んなところ触れて、俺くすぐったいんだけど。」


「へ……??」


「胸の辺りなんか特に。」


「え……。っ!!ひゃあぁぁ!!」



私はまた霧島くんの胸板を直視してしまった!!



「心配しなくても、俺は咲希のものなんだからさ、後でいっぱい触れさせてやるから安心して?」


「なっ!!!さ、さ、触ってないもんっっ!!!!全然触ってないから!!!ただ、すすす少しだけ見ちゃっただけです!!!その、…ヤラシイ気持ちで見たわけじゃないし!ただ視界に入っちゃっただけだもん!!!」



うぅ~。




自分で言ってて恥ずかしいっ!!



恥ずかしくて死んじゃいそうだよ!!



霧島くんの意地悪っ!バカ!



でも霧島くんの余裕は尚も健在で…。



「はいはい。わかったから大人しくしてような?」



むぅ!



全然わかってないよおおぉ!!





と、そこへ。





お姫様抱っこのまま、人だかりを突っ切って行こうとする霧島くんに対して、
彼の名前を呼ぶ声が聞こえてきた!





「っ理人……!!!」





それは笹原さんの声だった!



笹原さん…!



でも霧島くんはそれには全く反応せず、
私を抱きかかえたままスタスタと歩いて行く……。


「ーーっ!理人!!待って!」


笹原さんがこっちに向かって走ってきた!!


霧島くんの側に駆け寄ると、


「理人!お願いだから聞いて?今のは全部……その……。つ、作り話なの!!だから、里菜が本当に想ってるのは、理人だけなの!!それは中学の頃からなんにも変わってないもん!だから里菜のコト信じて?!ね!!」


と霧島くんにすがりついてくる!



「…………。」



それに対して霧島くんは黙っているけど……。



「里菜、理人のことがずっと前から…」


すると急に霧島くんの歩みがピタリと止まる!




……霧島くん??






そして!!





「全員聞けええぇぇーー!!!!!」




え!!?



急にどうしちゃったんだろ!!?



霧島くんが突如叫び出したっ!



その行動には、笹原さんも目が点に。



「いいかっ!!てめぇら全員耳かっぽじって、よ~~く聞けっ!!!ここにいる鳴瀬咲希は俺のオンナだッ!!!文句あるヤツは俺に直接来い!!!いつでも相手してやらあぁぁッッ!!!!!」






!!!!!






先生や生徒全員が霧島くんの迫力に、
みんな度肝を抜かされていた……!!!



そして私も頭が真っ白に!



「………と、いうわけで。もうここにいる理由はねぇな。行こうぜ。」


と、注目を浴びながら再び霧島くんが歩き始めた。




「り…ひと……。」



笹原さんのか細い声は風にかき消されてしまい、
もう霧島くんには届くことはなかった……。