その頃、コピ・ルアックにてーー







~♪



「まったくうるさいわねぇー!これで29回目よ!!リッキーはまだ戻ってこないの!?」


店長のマリコは、理人がお店に忘れていった携帯を睨みつけていた。


「文明の利器だか何だか知らないけど、今の若者は立派に自分用の電話機なんか持っちゃってさ!フン!」


マリコは現代には珍しい、昭和の考えをもつ人間であった。


「携帯電話なんてどう扱えばいいかわかりゃ~しないわよ!まったく……。」


携帯をクッションの下に隠して音をこもらせていたが、着信音がさっきから鳴りっぱなしでマリコの耳についてしょうがない。




~♪




マリコは限界であった…。





「あぁ”~~~~!!!!もう嫌だわ!!!何なのよ!!さっきからうるさくて敵わないわ!!」



初めて携帯電話を手に取ってみる。



すると、画面には

【 着信 准平 】

と、表示されていた。




「着信??ってことは、電話のことよね…?」


そうしばらく眺めているとプツッと突然着信音が鳴り止んだ。




しかし。






~♪




「またじゃない!!!もう!!」



マリコの眼つきが変わった!



この電波の向こう側にいるであろう “准平” という人物に対して、
憎々しさと苛立ちを覚えると、
思わず通話のところをタッチした!!



「ちょっとアンタ!!!さっきからうるさ…」


『ちょっと理人さん!!!!なんでさっきから携帯に出てくれないんスカッッ!!!!!コッチはずーーっっと心配して電話かけまくってたのに、あんまりジャン!!!!!』



准平のマリコをも凌ぐ怒気ある声が、携帯から割れんばかりに聞こえてきた!!


その迫力にさすがのマリコも呑まれてしまい、一瞬押し黙ってしまった!


『それで肝心のピュア子ちゃんは見つかったんスカ!!!??俺が、ピュア子ちゃんが他校のオンナ共に連れて行かれるところを目撃して、理人さんに知らせてから全く連絡ないし!!何かあったんじゃねぇかとヒヤヒヤしてたんすよ!!!?』


「……ピュア子ちゃん?」


『そうですよ!!!それで、理人さんに “ピュア子ちゃんが他校のオンナにラチられた!!” ってメールうってる隙に、アイツら居なくなってて……!!!俺、それからめっちゃ探しまくったのに見つからなくて!!!それに理人さん!!俺からのメールの返信で、 “大丈夫だ。” の一言ダケって!!!なんなんだよ!!?なにが大丈夫なんだよッ!!!!アイツら異様な雰囲気だったんだぜ!!?ぜんぜん大丈夫なワケないッショ!!!!!!』



それからも携帯からは、准平の取り乱す声が延々と聞こえてきて、
マリコは耳から携帯を離して聞いていた。




「なるほど~。やっぱりね~。そういうワケか。」




すると、
フフン♪と急にマリコは上機嫌になった。



「試しにやってみましょっか♪」


そう呟くと、携帯を再び耳へと近付けた。



「………オイ!准平!!さっきからウルセー!少しは黙りやがれッ!!」


『ッ!!理人さん!………………………す、すみません……。でも、俺、スゲー心配だったから……。』


「アラ♪うまくいったわ。」


『へ??理人さん???』


「いけね!………ゴホンッ!あ”~。あ”~。ん”!!」


『………あの。理人さん??………も、もしかして、いまの怒ってるんスカ?………い、言い過ぎました。すぃませ…』


「准平。お待たせした。理人だ。」


『は!??…………ハ、ハイ!!!』


「ピュア子は元気だ。安心しろ。」


『あ、ハイ!……って、え?! “ピュア子” ?!!』


「あ……。じゃなかった。 “咲希” は俺が救い出した。大丈夫だ。」


『な、なぁんだ~!!よ、よかった……。マジよかった!』


「あぁ。マジよかった。危ねえ、危ねえ。……でだ!准平、お前に頼みてぇことがある。」


『え……?頼みたいこと……スカ?!で、でも、俺いまちょっと色々いそがし…』


「お前じゃねぇとダメなんだ!つーか、これはお前じゃねぇと果たせねぇ役目ダ!」


『俺にしか……果たせない…役目!!?』


「いいか?まずは………、」





マリコには考えがあった。



ある意味、マリコにしかできない、とっておきの秘策だった!




しばらくして准平と通話が終了すると、
マリコはニヤリと笑ってみせる。




「さてと。……リッキー?アンタの叔父の底力を見せてあげるわ!」