苦々しい笑みを浮かべつつ、手を振って廊下で別れる。
2年の教室は3階なので、トントンッと軽やかなリズムで階段を下りる。
で、もう誰もいない静かな教室に入って、置き去りにしていた鞄を手に取った。
ふわぁ~と低女子力な欠伸をつきながら教科書を詰め、足早に廊下へ出ると──
「……中沢」
聞き覚えがある、どころか、つい数時間前に聞いたばかりの低音ボイス。
顔を見なくても分かる。
「まだ何かあんの? 塚原くん」
もう全く違和感のない呼び方と共に振り向く。
だけど…
そこにいたのは、あたしが知ってる "彼" ではなかった。
「……」
無言のままユラリと近付いてくる伸平は、その端正な顔に不気味な陰りをたたえていて。
背筋が凍りつくような感覚に襲われ、思わず後ずさってしまう。

![浮気男に逆襲を![番外編集]](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.781/img/book/genre1.png)