沸騰していた頭から、一気に熱が引いていく。
そして一度は落ち着いた思考なのだけど、今度は別の意味で嫌に騒がしくなる。
「……」
ナツくんはこんな行動を平気な顔で簡単にできるくらい、女子と接することに慣れているのかもしれない。
だって……人気者だもんね。
友達になってから、以前よりはナツくんに近づけたと思っていたけど。
わたしは、ナツくんのたくさんいる友達のひとりにすぎないんだ。
優しく親身に接してくれるから勘違いしてたけど、こんなのきっと、ナツくんにとっては誰にでもする態度なんだよね。
特別なんかじゃない。これが普通。
わたしばかりがドキドキして、意識してる……。
それを改めて感じると、無性に切なくなった。
ただでさえ心に寄り添えていないと感じていた距離が、思っていたよりもはるかに遠い距離なんだ、って。
……唐突に、現実を見たような気がした。
「ん? どうかした?」
「なっ、なんでもないよ……!」
すっかり落ち込んでしまって固まったままのわたしを、ナツくんが心配そうに見てくる。
だから慌てて笑顔を作った。
今はこの優しささえ……少し、つらい。
視線が自然と落ちそうになる。
――でも、その瞬間。
空にきらりと光る存在が目に飛び込んできて、弾かれたように顔を上げた。
「……一番星、だ……」
オレンジとネイビーブルーで彩られた、夕暮れの空。
ちょうどナツくんの真後ろの空で、それは輝いていた。
まだ他の星は周りに姿を現していない。
広大な空で、ひとりぼっちのひとつ星。
小さく、でも強いと感じる光を放っている。
わたしの心を慰めてくれるような、優しい輝きだった。



