ぐっと縮まったナツくんとの距離に、頭よりも先に鼓動が反応した。
加速する、ドキドキという音。
甘酸っぱいオレンジの香りが、その音に乗って全身を包み込む。
「はい、あーんして?」
「えっ……あ、」
驚いて開いた唇の隙間に、パウンドケーキを滑り込まされた。
突然のことだったけど身体が自然と動いて、何とか落とさないようにそれを無事に口内におさめる。
パウンドケーキをわたしに食べさせたナツくんの指は、微かに唇に触れてから離れていった。
びっくりして目を丸くしながら、口に手の甲を当てる。
唇が、異様に熱くなっていた。
な、なんなの!? あーんって……!!
断る間もなくて、ついついナツくんの手から食べさせてもらっちゃったけど……。
行動を思い返すと、尋常じゃないくらい恥ずかしいよ!
真っ赤に染まる頬は、夕焼けの光でも隠しきれない。
「あっ、俺が先にかじったところはちぎったから大丈夫だよ」
ほら、安心して……と。
わたしに食べさせた手とは反対の手に持っていたパウンドケーキの欠片を、ナツくんは見せてくる。
そして自分の口に放り込んで飲み込むと、ごちそうさま、と笑顔で言った。
「本当にうまかったよ。ありがとう!」
「ど、どういたしまして……」
何も気にしていない様子で笑うナツくんに拍子抜けしてしまう。
……わたしが、こういうことに慣れてないだけなのかな?
あんな至近距離で好きな人の手で食べさせてもらうなんて、緊張と恥ずかしさで心臓がどうにかなりそうだっていうのに。
ナツくんは、普通にやり遂げちゃうんだもんなぁ……。



