いつでも一番星



残りのパウンドケーキのうちのひと切れを手にしたナツくんが、上機嫌な声で言う。


「俺、オレンジが好きなんだ。だからこれ、すごく好き」


視線が手元のパウンドケーキからわたしへと移る。

にこりと笑ってからかじりつく姿に、胸の奥がきゅっと音を立てた。


「わたしもね、オレンジが好きなんだよ。だからわたしも、このパウンドケーキはお気に入りなの」


オレンジが好き。

ナツくんとの小さな共通点を見つけて、何だか嬉しくなった。

利き手もお揃いだし、同じところを知るたびに嬉しい気持ちが募っていくみたいだ。


「そうなんだ! ……あ、ごめんな! 平岡さんも好きなのに、俺ばっかり食って。しかもこれ、最後のひと切れだし……」


よほどお腹が空いていたのか、いつの間にか最後のひと切れを手にして一口かじっていたナツくん。

だけどわたしの言葉ではっと我に返り、遠慮の気持ちが芽生えたのかぴたりと手を止める。

それから申し訳なさそうに、視線がパウンドケーキとわたしを行ったり来たりした。

いつも堂々と伸びている背筋が、心なしかしょぼんと縮んでいるみたい。

変に落ち込んでしまったナツくんに、慌てて明るく声をかけた。


「いいよいいよ、全部食べても!」

「いや、でも……」

「わたしが食べてほしいって思ってるからいいの。ナツくんがおいしそうに食べてくれると、すごく嬉しいから」


つい本音をそのまま伝えてしまい、あとから恥ずかしさがこみ上げてくる。

でも、本当にそう思っているから。

だからこそ笑って、ナツくんと向き合った。