「ありがとう。そうなるように頑張るよ」
「うん。……頑張ってね!」
だから、いつか。
心の声を聞かせて。それが許されるぐらい、きみのそばにいさせてほしい。
そうすれば“頑張って” の一言も、もっときみの支えになれる気がするから。
そんな思いを胸に秘めていると、突然ナツくんがじっと見つめてきた。
あまりにも真っ直ぐ顔を見てくるものだから、わけもわからず緊張してしまう。
な、なんだろう、急に……。
わたし、変なこと言ったっけ?
なんか、無性に恥ずかしくなってきたよ。
言葉の代わりに首を軽く横に倒すと、ナツくんは目をぱちくりさせてから微笑んだ。
「さっきからずっと思ってたんだけどさ、平岡さん、甘い匂いがするね」
「……へっ?」
脈絡のないことをなぜか笑顔で言われて、驚きのあまり間抜けな声が出た。
意味がわからなくて何度も瞬きを繰り返していると、やっとのことで思いあたる。
「……あ。もしかしたら、お菓子の匂いかも。今日の調理実習はお菓子作りだったから、その匂いが制服についてるのかもしれない」
そういえば調理実習のあとって、制服に匂いが移っちゃってるんだよね。
着ている間はわたし自身が匂いに慣れてるから、染みついてても気づきにくいんだけど。
「なるほど、その匂いか。どうりでいい匂いなわけだ」
「ナツくん、お菓子好きなの?」
「うん、わりと好きなほうだよ」
ナツくんの回答を聞いて、ぴんと頭の中に考えが浮かんだ。
そうだ、せっかくだし……。
ちょっと待ってて、と声をかけてから、背後の机の上に置いてあったトートバッグを漁った。



