「雫ちゃんってば、またー? ほんと、毎回毎回見てるなんてすごいよね。そんなに好きならもっと話しかければいいと思う。せっかく同じクラスなんだし」

「……だから、好きじゃなくて憧れてるんだってば」


どこかで似たような台詞を聞いていたせいで、反抗する声には諦めも含まれていた。


茉理ちゃんと一緒で、サトちゃんもわたしがナツくんに憧れていることは知っている。

でもやっぱりサトちゃんもわたしがナツくんを好きだと思い込んでいるらしく、ふたりして同じようなことを言うんだ。

部活で被服室に来るたびにそこからナツくんを見ているせいで、サトちゃんは余計に勘違いをしているらしい。

そして懲りずにナツくんに視線を向けているわたしを見つけては、さっきみたいにからかってくるんだ。

もはや、サトちゃんの完全なお遊びだ。


……そりゃあ、確かに。
自分の作品作りがおろそかになるぐらい、夢中になってナツくんを見てるときもあるけどね。

仕方ないんだよ。
被服室からは野球部の活動がよく見えるから、憧れの人を眺めるには格好の場所なわけで。

チャンスとばかりに、ついつい見ちゃうんだもん。

近すぎるわけでも、遠すぎるわけでもないから。
教室にいるときみたいに、変に緊張しなくてもいいし……。


「憧れねー。でもあの人のせいで手が止まってたら、全然作品は完成しないよ?」

「ううっ、そうだけど……」


痛いところを突かれて項垂れる。
確かにさっきから、手元の材料の配置も形もさほど変わっていない。