きっといろんな人からナツくんは受け取るだろうってある程度予測しておいて、その瞬間を見てもショックを受けたりしないように、気持ちの準備はしていたつもり。
……でも、複雑な焦燥感があったのは確か。
周りのことばかりを気にしていつまでうじうじしているだけで、ちっとも友チョコを渡せずにいるわたし。
そんなわたしとは違い、堂々とナツくんに渡している女子たち。
その行動力の違いに対しての焦りもあったけど……。
わたしは恐ろしいことを忘れていたことに、女子に囲まれているナツくんを見たときに気づいたんだ。
あの女子みんなが、本当の意味での友チョコを渡しているとは限らないってことに。
だってわたしが気持ちを伝えずに友チョコを渡そうとしているように、同じように気持ちを隠してナツくんに渡していた子だっているかもしれないんだ。
もはやわたしが知らないだけで、すでにナツくんに本命チョコを渡して告白した子だっているかもしれない。
もしナツくんが、そんな女子からの気持ちを受け取っていたとしたら……?
わたしの頭の中で、ナツくんが見知らぬ女子にやわらかな笑顔を向けているイメージがむくむくとわき起こってくる。
……わたしは、ナツくんに渡してもいいのかな。
わたしなんかがナツくんに渡しても、本当にいいのかな。迷惑だったりしないかな。
あくまで可能性に過ぎないけど、休み時間のたびに渡せなかった自分の臆病さと相まって、もはやモチベーションは完全に底辺を彷徨っていた。



