情けなくて、ため息が出た。
せっかく、渡す決意が固まってきたところだったのになぁ。
手にした友チョコを見て、がくっと項垂れた。
そんなわたしの背中を、ついさっきと同じように茉理ちゃんが叩いた。
バシッといい音が鳴るエールは、落ち込んでいるわたしには少し痛すぎる。
「まあまあ、これしきで落ち込まなくても! チャンスなんて、今日1日の間にいくらでもあるんだし、ね?」
「そ、そうだよね……。今日中に渡せたらいいんだもんね」
「そうそう!」
やけにテンションが高い茉理ちゃんにつられて、少しずつ気持ちが上昇してきた。
うん、そうだよ。
まだ、バレンタインの今日は始まったばかり。
だから休み時間とかになれば、いくらでもまたチャンスは巡ってくるはず。
そのときこそ、ナツくんに渡そう。それでいいよね。
「……よしっ、次こそ渡すぞ!」
胸の前でぐっと拳を作りながら意気込む。
茉理ちゃんはにっこりと笑いながら、うんうんと頷いてくれていた。
「よーし、えらいぞ雫! そんな頑張り屋さんの雫には、はい! あたしからの友チョコをどうぞ!」
「わー、茉理ちゃんありがとう!」
茉理ちゃんはいつの間にか渡す用意をしていたらしく、半透明のラッピッング袋をさっとわたしの目の前に差し出してきた。
わたしもナツくんの友チョコを一旦しまって、茉理ちゃんへ渡すために持ってきていた黄色の紙袋を取り出す。
こちらの中身は、チョコドーナツだ。



