黄昏の特等席

「ん・・・・・・?」

 何かがおかしいのだが、眠気がまだ飛んで行かないので、目を開けることができない。
 足を前後に動かすと、床に足がついているような、ついていないような奇妙な感覚なので、グレイスは眠気と戦いながら目を開ける。

「起きた?」
「痛っ・・・・・・」

 両手首の痛さに呻き声を上げて頭上を見上げると、鎖で吊るされていることにようやく気づいた。

「何、これ・・・・・・」
「驚いた?」

 背後からクルエルの声が聞こえる。何をされるのかわからないが、一つだけわかることは恐ろしいことをされること。
 横から黒くて長いものを見せられ、それが鞭であることを理解するのに、時間がかかった。
 これからされることが想像できたグレイスは顔を一気に青ざめた。

「動いたら駄目だよ?」
「な、何を・・・・・・」

 頭でわかっていても、グレイスは震える声でクルエルに問いかける。

「何度も君が僕を拒むから、これでわからせようと思って・・・・・・」
「本気で・・・・・・?」
「うん。もちろん本気に決まっている・・・・・・」

 クルエルは正気ではない。それは前からわかっていたものの、彼を止められるものは誰もいない。