黄昏の特等席

 グレイスがミルドレッドの服の袖を掴むと、ミルドレッドはその手を優しく包んでから、数歩前に出る。

「二人とも、戻ってきてくれる?」
「そんなこと・・・・・・」

 彼のところに戻りたくない。それに戻したくなんかない。
 ミルドレッドは震えながら、グレイスを一瞥してから、クルエルを見る。

「・・・・・・お断りします」
「くっ!」

 このまま戻っても、グレイスもミルドレッドも不幸になるのは確実だ。
 クルエルが危険人物なのは思い知ったので、そんな彼のところにグレイスを連れて行くことなんて絶対にしない。
 
「そう・・・・・・」
「あなたのように、平気で人を傷つける人のところにグレイスお嬢様を連れて行きません!!」
「・・・・・・わかった」

 クルエルは部下を押し退けて、近寄ってきた。距離が短くなるので焦っていると、クルエルはミルドレッドに斧で攻撃をしてきた。
 グレイスを下がらせて、ミルドレッドがそれを振り払うと、クルエルは彼女に罵声を浴びせながら、斧を振り回す。避け続けていると、足場が崩れて、崖に落ちそうになったミルドレッドを狙って、クルエルが斧を振り下ろした。
 傷つけられて血を流すミルドレッドをクルエルは崖に突き飛ばして、彼女を落とした。
 グレイスが手を伸ばしたときにはもうミルドレッドは届かず、彼女はどんどん下へ落ちて、ミルドレッドを呼ぶグレイスの声だけが響き渡った。