黄昏の特等席

 彼は頷いてから一人で屋敷の方向へ歩いていき、グレイスとブライスは別の方向を歩いて行くと、着いたところは高台公園。

「ここは私達だけが知っているのね・・・・・・」
「『黄昏の特等席』だな」

 グレイスと出会ってから、ブライスも何度も足を運ぶようになった場所。二人にとって大切な場所で、これからもここに来る。
 黄昏を眺めると、思い出すことがいろいろあり、その度に胸が苦しくなる。ずっと前は黄昏が大嫌いだったけれど、今はそう思わなくなった。

「あの、前から渡したいものがあるの」
「何だ?」

 グレイスは鞄からプレゼントとして贈る黒い万年筆を取り出し、それをブライスに渡した。

「これ・・・・・・」
「前にお気に入りの万年筆が使えなくなったことを教えてくれたでしょ?」

 だから内緒で買ったことと本当はもっと早くに渡すつもりだったことを伝える。

「ありがとう。大切に使わせてもらう」
 
 ブライスはグレイスの頬にキスをして、ふっと笑った。

「またキスした・・・・・・」
「嬉しいことをしてくれた礼だ。これからもするから楽しみにしていなさい」
「楽しみにしません!」

 恋人同士なのだから、キスをしても何の問題もない。
 屋敷の人達に自慢しようとするブライスを止めるため、グレイスは遠ざかる彼の背中を追いかけた。