子どものときからたくさん我慢をする必要がないことを言って、柔らかな髪を撫でる。

「わかった・・・・・・」
「さて、まだ仕事が残っているからな」
「そうだったの?」

 ブライスが仕事中に自分を捜してくれたと思うと、ちくりと胸に痛みを感じた。

「・・・・・・ごめんなさい」
「みんな心配している。それに夜になるのはすぐだ」

 空が暗くなったら、危険だからそうなる前に二人で一緒に帰る。

「アクアマリン」
「あっ・・・・・・」

 戻ろうと一歩前に踏み出すと、ブライスは手を繋いでいないことを言った。
 自分の姿を見ようとせず、怯え続けるので、会うときは必ず少女に自分の姿が見えないように布や帽子などで隠している。

「喉が渇いた・・・・・・」
「今日は何を飲みたいの?」
「ゆっくり考える。ああ、選んでくれても構わない」

 紅茶の種類を多く知らない上、屋敷で管理してある紅茶はどれも高級なものばかりで、飲んだことがないので、遠慮した。
 屋敷に戻ると、メイドや使用人達が笑顔で迎えてくれて、心配したことを告げられた。

「好きな焼き菓子を用意したんだ。食べずに逃亡するなんて、もったいないぞ?」
「用意してくれたものは何?」
「さあな・・・・・・」

 勝手に屋敷を抜け出したから、簡単に教える気はないことを言ったものの、その焼き菓子を知られたのは十分後のことだった。