さくらの花が咲く頃に

マーガレットは、ローテーブルにカップを並べると、自分もソファに腰掛けた。

夕食後のこのお茶会も恒例になっていて、魔法界ではあり得なかったこの三人でテーブルを囲む。

人間界って、本当に自由でいいわね!


「いただきましょ」


まだ話は終わっていない、と目で訴えてくるリヒトを無視して、私は紅茶を飲んだ。

マーガレットの前で彼の話をしないあたり、まあまあ私のプライドというものを気にしてくれているらしい。


「リラさま、今日の学校はどうでした?」


昨日の私の怒り様を思い出しているのか、マーガレットはいたずらっぽく目を輝かせて聞いてきた。


「思ったより楽しかったわ!友達も出来たのよ」

「まあ!それはよかったですわ。リヒトさまは?」


続いてマーガレットがそう聞くと、リヒトは柔らかい笑顔になった。

こいつ、私にはこんな顔しないくせに、ほんっと外面がいいんだから!


「何事もなく過ごしていますよ。初めて学校に通いますが、実に興味深い」

「そうでしたわね!リヒトさまは学校で勉強なさるのが初めてなんでしたわ」

「マーガレットも行ってみたいですか?」

「いいえ、私は…。家でのんびり家事をしているのが楽しいですわ」


いつも思うのだけれど、もしも私が男だったら、きっとマーガレットに恋に落ちていたと思うわ。

どうして、こんなに優しく笑えるのかしら。

少し羨ましいわ。


「リラさま、明日から授業が始まるが、用意は大丈夫ですかね」

「大丈夫よ」


リヒトだってほら、私には馴れ馴れしく話すもの。


「勉強の方にはついていけるのですか?中等部を卒業してから、まともに勉強していないでしょう」


あら、失礼しちゃうわ。


「心配いらないわよ。平均点を取れるくらいには頑張るわ」

「王女が平均点かよ……」


そんな呟きが聞こえ、私は軽く睨んでみせた。


「何か言ったかしら」

「いえ、何も?」


……まあ、リヒトはこういうやつだわ。


「それよりも、あなたは平気なの?まともに勉強したことなんてないでしょう?」


私はずっと気になっていたことを口にした。

リヒトのやつ、年齢を偽ってまで学校に通うことになったけれど、人間界の高等学校って、そんなに簡単な勉強をするところでないのよ。

騎士道まっしぐらだったリヒトに、机に座ってノートと睨めっこするなんて…出来るのかしら。


「随分な言いようだな。リラさまの心配には及びませんよ」

「もしかして、リラさまはご存知ないのですか?」


……あら?

余裕じゃない。

それに、マーガレットのいうことって?


「何を?」

「リヒトさまは、12歳になるまでに、高等部程度の試験を合格されたそうですよ」

「…え?」

「まあ言っていなかったから、知らなくても仕方ない」


……どういうこと?


「あら、本当にご存知なかったのですね!リヒトさまほど優秀な騎士さまはいらっしゃいませんわ、リラさま」

「たまたま文武両方に能があっただけですよ」


私が知らなかっただけで、リヒトは勉強もできたということ…?

まあ!

本当に知らなかったわ。

今までずっと一緒にいたのに!


「それなら、どうして私に隠していたのよう!」

「三角形の面積が求め方がわからず、悶えていた頃、球の体積を求めていた俺に、どうしろと?何と言っても、リラさまのプライドが傷つくでしょう」

「その言い方がひどいのよ!あなた、本当にいつ勉強していたの?」


ああ、こいつは本当に嫌な男だわ。


「夜ですよ。リラさまのベッドの脇でね」

「あ…そう…。気がつかなかったわ」

「リラさまは一度寝られたら滅多に目を覚ましませんからね」


そう言って、私をみてクスクス笑う。



リヒトのことなら、なんでも知っていると思っていたのに、こんな一面があるなんて。

人間界に来て、1番大きなびっくりだわ。