さくらの花が咲く頃に

その日の夜、私はお風呂を終えて、マーガレットに髪を梳かしてもらっていた。

やはり学校からは別々に帰ったリヒトと私だけれど、家では私の忠誠な護衛となったリヒト。

すました顔して、私の後ろに立っている。


「ねえ、リヒト」

「なんでしょう、リラさま」


私は、鏡の中のリヒトを見ながら話しかけた。


「イケメンって、どういう意味か知っている?」

「簡単に言うと、かっこいい男の人、という意味だと思いますが」

「……は?」


あら?

私が考えてたのと全然違うわ。

だいたい、それじゃあ、リヒトがかっこいいだなんて言われていたってことなの?

いやいや、そんなわけないわ。


「急にどうしたのですか、リラさま」

「あなた、今日、みんなにイケメンだと言われていたでしょう?あなたに使う単語なんだから、その意味はないと思うわ」

「リラさまは俺がかっこよくないと?」

「当たり前よ。この女たらし」

「女たらしだと?なぜそう思う」


あ。

口を滑らせてしまった。


「リラさま、そんな言葉、使ってはなりませんわ」


背後から声が飛んでくる。


「はあーい」


マーガレットは厳しいからなあ。


「マーガレット、聞いてほしいの。リヒトったら、女の子に囲まれて、へらへら笑ってたんだから」

「ただ笑っていただけだ。決してへらへらなどとは…」

「おんなじよ!こういう時に使うのでしょう?そういう言葉は…」


私が振り返ると、マーガレットがにこっと笑った。


「リラさま、終わりましたわ」

「ありがとう」

「では、私はお茶を淹れてまいりますね」


マーガレットが部屋から出て行ってしまうと、リヒトはどかっとソファに座った。

ちょっと、あなた。

最近、私に対して失礼になったんじゃなくって?


「じゃあなんですか。リラさまは、自分の護衛が女性に対して無愛想なヤツがいいんですか?」

「そ、そういうわけじゃないわよ」


私もソファに座って、マーガレットを待つ。


「では、今日の対応で問題ありませんね?二度と、女たらしなどと言うなよ」


不機嫌な目つきで私を見るリヒト。

なによ、私には無愛想なんじゃないの。


「はーいはい」

「はい、は一回だろ」

「はあいっ!」


ああ、なんて憎たらしいのかしら!


「リラさま」

「なによ?」


リヒトが急に、私を見つめてくる。

何事なのよ。

なんだかどぎまぎしちゃって、私は目を逸らした。


「彼と、どうするつもりですか?」

「……どうもしないわ。出来たら友達になりたいけど」


またその話だ。

その気になれば、リヒトは私の心を読めるのに、どうしてしつこく聞いてくるのかしら。

それとも、知ってて聞くの……?


「それ以上の気持ちがあった場合、俺の方から阻止しますからね」

「わかってるわよ…」


あったら、どうだっていうのよ。

誰にも伝えずに、秘密のまま終われば、あったってなくたって、同じじゃないの。


「つらいのはあなたですよ」

「万が一そうでも、そんなの、耐えればいいわ。ほおっておいて」


リヒトがまだ何か言おうと口を開いた時、マーガレットが戻ってきた。