さくらの花が咲く頃に

5組の教室のドアから、中を覗き込む怪しい女子高生。

会いたいなら、話しかければいいのに。

私はついてきたものの、一緒に身を乗り出す気になれなくて、後ろから見ていた。

私の位置からは室内は見えないけど、一人でドキドキしていた。

ここは、彼の教室だもの。

いる…かしら。

でも、わざわざ中を覗いたりすれば、さっそく彼を見にきたって、リヒトに誤解されそうだし。

そんなの御免だわ。


「いないみたい」

「どこか行ってるのかな」


…あら?

リヒト、いないの?


「あ。ゆり、ゆり」


ちなみに、学校では、私とリヒトは無関係ってことにするために、安易に話しかけるのは禁止……らしい。

ほんと、冷たいヤツだわ。

家に帰ると、ずっと私のそばにいるくせに。


「このクラスの転校生っている?誰?」

「ああ、坂本君?今は…いないみたい」


一緒に来た女の子の一人が、5組の子に聞いてる。

友達なのかな。


「そうなのか〜。残念っ」

「あはは、また来ればいいよ。あ、4組の転校生ってその子?」


みんなが一斉に私を見て、私は慌てて顔を上げた。

わお。

注目の的だわ。


「わああっ、可愛いっ!お人形みたい!」


ゆり、という子が前に出て、私にぐいっと近づいてきた。

……わ、わお。


「りらが引いてるよ〜!ゆりの女の子好きは強烈だからね」


周りのみんなは笑ってる。

お、女の子好きって…?


「イギリスから来たんだよね?ハーフなの?」


…あ、またこの質問だ。

私の顔って、もしかして、日本人のものとは少し違うのかしら?

クラスの子で何人かにも聞かれたし。


「イギリスから来たけどハーフじゃないよ〜」


何度も答えたこの質問に、今なら笑って答えられる。

どうやら、人間界では、可愛い人は〝ハーフ〟が多いみたいね。


「そうなの!?日本人離れしてるねっ」


……それは褒め言葉かしら?

よくわからない……。


「通してもらっていいかな」

「あ、この人が坂本君!」


突然、私の背後で声がした。

ハッとして振り返ると、優しい笑みを浮かべたリヒトが立っていた。

……なに、この笑顔。

思いっきり猫かぶってる!

じとっと見てやるけど、リヒトはまるで役者のように表情をくずさない。

こいつ…やるわね。


「転校生の?わあ、かっこいいね!」

「きゃー!すごい!イケメンの転校生とか漫画みたいっ!」


あ、イケメン。

うーん…

今のリヒトは、馬鹿みたいにへらへら笑ってるから、馬鹿っぽい笑顔の人のことを、イケメンというのかしら?


「いやいや、そんなことないって」


なんて言いながら笑っている、わ、た、し、の、護、衛。

この年齢詐欺がっ!

私は一人、女の子に囲まれて形相を崩しているリヒトを睨んだ。