さくらの花が咲く頃に

「彼の顔を知っているのか?」


私のそばまで来たリヒトが、後ろから質問してくる。


「お母さまの水晶玉で見たことがあるのよ。彼がこの学校に合格した瞬間をね」

「……ほう。それでこの学校を選んだと?」

「そうとも言えるわ」


うーん…

3組まで見たけれど、彼らしい人はいない。

4組は私のクラスだからもう調査済みだし、次はリヒトの5組か。


「会って、どうするおつもりですか?」

「そんなの…特に考えたことない…」

「そんなわけないよな?」


うるさいなあ。


「静かにしてよ。集中してるん…っ」


どきりとした。

この人、彼に、あまりにも顔が似てる……。


「どうした?」


この人だわ……。


「リラ?リラさま?」


少し焼けた肌に、腕まくりした白いワイシャツ。

真面目そうに、顔を上げて先生の話を聞いていたみたい。

どうしよう!

とうとう見つけた!


「り、リヒト、この人よ……」

「え…」


リヒトが私の前に来て、彼の姿を見る。

私は足がガクガク震えて、その場にしゃがみ込んでしまった。

その瞬間に見えた、この人の上履きには、〝sakura〟の文字が書いてあった。

これは、ローマ字というもので、意味は、『さくら』。

佐倉。

彼の苗字。

この人は、あの日の彼なんだわ…!


「リラさまっ」

「平気よ」


リヒトに支えられて立ち上がるけど、まだ体が震えてる。

やっと、やっと会えたのね!

10年間待ってた日が、ようやく来たんだわ。


「俺と同じクラスだったのか……」


リヒトも某然と呟いてる。


「リラさま……」


そして、その瞳が言ってる。

この人に、恋愛感情を持つなよ。

間違っても、友達以上の関係になるな、と。


「…そろそろ時を止めるのも限界だわ。自分の場所に早く戻らないと」


私は踵を返して、元の場所に戻った。


「リヒト、早く仲良くなって、私にも紹介してね」


リヒトに聞こえないくらいの大きさでそう言うと、リヒトが座ったのを感じてから、魔法を解除した。