さくらの花が咲く頃に

「えー、皆さん、進級おめでとうございます。二学年というのは大変大切な時期であって…」


私たちは今、体育館に並んで座って居た。

床に座ったのなんて、初めて。

冷たくて硬いし…もう飽きたわ。

前に出たおじさんが何か言ってるけど、全く興味が持てない。

せっかくみんなの前に出るんだから、もっと面白い話をすればいいのにね。


でも今はそんなのどうでもよくて、

それよりも、彼を探さなきゃ。

体育館に入ってくる時にも探したけど見つからなかった。

そもそも、たくさんの人で溢れかえっている移動途中に見つけられるなんて思ってなかった。

私は彼の顔をよく知っているわけではないから、それは難しい。

だから、勝負するなら、みんなが整列しているこの時!

……魔法をかけて、みんなを止めてしまおうと思う。

というより、それが1番効率がいい。

でも、問題はリヒト。

あいつも、この列のどこかにいるはず。

魔法を使ったら、絶対にばれる。

リヒトは私より魔力が高いので、私が適当にかけた魔法じゃ、自動的に跳ね返してしまうのだ。

そしてきっと、こう言う。

『リラさま、何をなさっているのですか?』

そう、馬鹿みたいに甘い顔をしてね!

ああ、憎たらしい。

…そしたら、なんて答えよう…?

そうね……

リヒトを黙らせる正当な理由……


『知り合いを探してるの。せっかく人間界に来たんだもの。会いたいじゃない』


…これだ!

これは立派な理由になるわよね?

こんな絶好のチャンス、逃すわけにはいかないし、

探すなら今よ!


私は一人で気合いを入れると、心の中で呟いた。


『時の精よ、我の願いを叶え、この空間の時を止めよ…!』


小さな場所を止めるだけだから、短い呪文でOKなのよね。

魔法をかけるとき、大切なのは自分の気持ち。

呪文は、それを込めるのに使われるものだから、長ければ長いほど気持ちがこもる。

でも、大きな魔法をかける時に、作文用紙一枚分ほどの呪文を考えたことがあるけど、やっぱり大変。

今はあれぐらいでちょうどいい。


「リラさま!?魔法をかけたのはリラさまですか?」


後ろの方からリヒトの声が飛んできて、きちんと魔法がかかったことを実感する。

成功、成功!


「そうよ!」


私はそう言って、立ち上がって振り返った。

…こうして見ると、みんなの動きが止まっているのって、結構おもしろいわね。


「何をするつもりだ?人間界では極力魔法を使わないと…」


リヒトはずかずか歩いてくる。

私は列から飛び出すと、男子生徒の一人一人の顔を覗き込みながら歩いた。


「知人を探してるのよ。魔法を使った方が、効率が良いと思ったの」


ふふふ、我ながら、よくきれる頭だわ!

それっぽい理由が、口から出てくる。


「もしかして、彼か?」

「さあ、どうかしら?」


肩をすくめて曖昧に答えてみる。


たくさんの生徒がいるけど、早く彼を見つけなきゃね!