さくらの花が咲く頃に


「それから、リラさま」


何?


「俺が勝手に設定したことだが、人間界ではリラさまを甘やかさないというのが俺の目標です。リラさまもそのおつもりで」


な、何よ、その目標設定!!


「じゃあ、昼間冷たかったのは、その目標に従ってのことだったのね!?」

「ご理解がお早いようで…」


そんなことを言いながら、リヒトはクスクス笑った。


「馬鹿にしないでよ、もう!」

「リラさま、もうすぐ生涯の伴侶が決まるのです。そのように我儘では困ります」


生涯の伴侶……。

急にその単語が出てきて、体の芯から冷たさが広がった。

今…そんな言葉を言わなくたっていいじゃない……。

一年後の結婚は、私のウィークポイントであったけれど、それを感じさせない明るさで声を出した。


「リヒトったら失礼ね!旦那さまには迷惑かけたりしないわよ」


笑顔を作った頬が引きつる。

現実を、受け入れなさい。


「さあ、どうでしょうねえ。幼い時から我儘王女だったあなたが…ねえ…」

「我儘王女ですって?そんなことなかったはずよ!」


今夜のリヒトはよく笑うなあ。

その笑いって言っても、ひとを小馬鹿にしたような笑いで、とても最悪だけどね!

頬を膨らませてると、ドアが開いてマーガレットが部屋に入ってきた。


「リヒトさま。リラさまの言うとおりですわ」


ニコニコ笑いながら、私たちのそばまで来ると、ローテーブルにお盆を置いた。

マーガレットは私に味方してくれるのね!

なんて優しいのかしら!


「そうでしょうか?俺にはただの我儘娘ですよ」

「ひどい!」

「…本当のことだろうが」


こ、こいつ、王女に向かってずいぶんひどいじゃない!


「リヒトさまはお気付きでないのですか?リラさまは、リヒトさまにしか我儘を仰いませんよ」


あ……。

マーガレットは気づいていたのか。

リヒトが首を傾げてる。


「……そうなのか?俺だけ?マーガレットには言わないのか?」

「ええ、仰いませんわ。きっと、リヒトさまにはお気を許していらっしゃるのですよ」


マーガレットが優しい笑顔でそう言った。


「そうですよね、リラさま!」

「別に…リヒトに気を許してるわけじゃないわ……」


たしかにリヒトは、気にせず本音を言える相手だけどね。


「だからリヒトさま、可愛いリラさまの我儘ぐらい、聞いてさしあげてくださいな」

「マーガレットったら!」


恥ずかしくなって、私はばっと立ち上がった。


「もう!それ以上言ったら怒るわよ!」

「リラさま、お顔が赤いですわ」

「マーガレット!」


マーガレットまで笑うなんて…。

私は、そのままソファまで行って腰掛けると、紅茶に手を伸ばした。

もう!暑くなってしまったわ!


「そうなのか、リラ?」


……!!

危うく紅茶を吹き出すところだった。


「ちょっと!急に呼び捨てしないでよ!」

「ああ、申し訳ない。そんなに驚かれるとは」


リヒトめ。

完全に面白がってるな。


「では、リラさま。マーガレットの話は本当なのですね」

「そうよ!わかったら、私の話に同情しなさい!」

「同情できるお話でしたらそうします」


…どこまでもぶれないリヒト。

それじゃ昼間と変わらないわよ……。


「あ、明日も学校でしょ!私はもう寝るから!」


はずかしまぎれにそう言って、私は紅茶を飲み干した。