さくらの花が咲く頃に

お風呂から上がって、マーガレットに髪の毛を乾かしてもらっていると、部屋にリヒトが入ってきた。

マーガレットは、髪が乾くとそそくさと部屋を出て行ってしまった。

なによ…いつもはお喋りするのに…。

リヒトが来たから気を遣ったのしら?

今はリヒトに会いたい気分でないのに。


「リラ……リラさま」


リヒトが近づいてきた。

来なくていいのに!

ドレッサーの大きな鏡に、リヒトが映って、鏡ごしに目が合った。


「なにかしら」


髪の毛をいじる振りして、私は俯く。


私、なんだかとっても勘違い野郎よね。

いつもはいなくていいなんて言うくせに、いないとそれが気になって仕方ないなんて。

今までは、リヒトから私のそばにいるのだと思っていたけれど、結局は私がリヒトに依存していただけだったのよ。

恥ずかしいわ。


「リラさま。言いたいことがあるのなら今の内に言ってください」

「言いたいことなど何もないわ」


何もないわよ。

でも。

そうね、強いて言うならば…


「リヒト、敬語はなしでいいって言ったわよね」

「それは遠慮することにしました。今まで通りに話しますよ」

「なぜ?私が認めたことに反発したいのかしら」


私はやっと顔を上げて、鏡のリヒトに視線を投げかけた。


「違いますよ」

「……そう」


再び追求すると、私の意地になってしまう気がして、ここで止めた。

リヒトがそうしたいなら、そうすればいいわ。

そもそも、リヒトの雇い主は、お父さまだしね。


「リラさま、お話しを戻します。どうしてあなたは…」

「戻る必要のある話はないわ」

「俺にはありますから」


リヒトの手が、私の肩を掴んだ。

ぐいっと振り向かせられる。


「リラさま、もうご存知であると思っていましたが、知らないのですか?」

「何を?」

「その様子だと知らないようだな…」


いつも通り、たまに崩れる敬語を使うリヒトは、溜め息をつくとソファに座った。

私の知らないことが何かあるの?


「言えば俺がとばっちりを受けるだろうと思って言わなかったが、国王も言っていなかったようですね」


とばっちり?


「リラさま。俺がリラさまのそばについてずっと監視をしていては、必ず人間に怪しまれます」

「それもそうね」

「国王もそれを案じ、リラさまと俺を、それぞれ隣のクラスに入れたのです」

「じゃあ、リヒトは3組か5組なの?」

「5組です。そして、俺はモノを透視する力を持っている。つまり、」


え、待ってよ……?

リヒトには壁があろうとなかろうと関係ない。

直線的に私が見えれば。

…それって!!



「壁越しに私を監視してるというの!?」


私はがばっと後ろを振り返った。

苦笑したリヒトと目が合う。

リヒトがこんな表情をするのは少し珍しいこと。

そんなに私がおもしろいのかしら!


「そうですよ。素晴らしいアイディ…」

「じょ、冗談じゃないわ!この変態!ストーカー!」


私、一度もそんな話聞いてないわよ!

壁越しに見つめられるなんて、

そばにいられるより恥ずかしいじゃないの。


「じゃあ、今日の私の自己紹介も聞こえてたのね…?」


リヒトの瞳を探るように見つめる。


「ええ…まあ…」


なによ!

知っていたのに、私にわざわざ説明させたのね!

しかも同情すらしてくれなかった!


「……というわけで、リラさまのことは俺がしっかり見てますから、安心して人間界生活を送ってください」


あら。

器用にまとめたわね。


「仕方ない……わかったわ。リヒトが守ってくれるのね」

「この命にかけても」


リヒトは私の前にひざまずくと、手を取った。

こんな時だけご機嫌をとろうと思っても、私にはお見通しなんだからね!

でも……

…よかったわ。

いつもみたいな、リヒトに戻って……。