さくらの花が咲く頃に

「リラさまも、リヒトさまも、また喧嘩なさったんですか?」


夕食のテーブルで、マーガレットが尋ねる。


「喧嘩なんてしてないわ」

「同感だ」


リヒトと意見があったことにむっとして、私はそっぽを向いた。


「リヒトがひどいのよ。お父さまに言って護衛を変えてもらいたいくらいだわ」

「まあ、リラさまったら。心にも思ってないことを口にするのはよろしくありませんわ」


マーガレットは微笑ましそうに笑う。

でも、いつもみたいな、リヒトの失礼な行動に腹を立てて言うような、軽い言葉じゃないのよ。


「思ってるわよ、心の底から。マーガレット、聞けばわかるわ!」

「そうやってまた他人に我儘をぶつける気か」


リヒトに言われて私は思わず立ち上がった。


「我儘じゃないわよ!あなたが職務を全うしないのがいけないのでしょう!」

「…リラさま、今はお食事中ですわ」


…いけない。

マーガレットに咎められて、私は我に返ってすごすごと椅子に座る。


「リラさま、何があったのか、このマーガレットにも教えてくださいませんか?」


マーガレットが私の顔を覗き込む。


「……リヒトと、同じクラスでなかったの」


口にすると、ちっぽけな問題のように思えた。


「まあ、それはそれは。…でも、魔法界の学校へは一人で行かれていたではありませんか?」


たしかにそうだ。

でも……

だって、ここは人間界よ…?

それに、リヒトが一緒だということは、ずっとそばにいてくれるってことだと思ったのよ。

勘違いしたって…仕方ないじゃない…。


「それに、リヒトは無断で一人で帰ってしまったの。私はリヒトを探して学校を歩き回ったのに…」

「そうなのか?」

「そうよ。今更知ったの?」

「いや、俺はてっきり……」


なんでもないことのような気もするのに、すごく悲しくなる。

いろんな感情が混ざって、涙が出そうよ。

でも……

…そうよ、リヒトに頼らないで生活しようと決めたじゃない。


「別にもう気にしてないわ。私も一人の方がのびのび出来ていいしね!」

「まあ、リラさまったら」


私が笑うと、マーガレットが笑った。


「じゃあ私、部屋に戻るわ。お風呂の準備が出来次第、呼んでちょうだい」

「かしこまりましたわ」

「今日も美味しかった!ごちそうさま」


私はさっと立ち上がって、ダイニングを後にした。

そう。この正体不明なこの気持ちから逃げたかったから……。