さくらの花が咲く頃に

「リヒト!」


私は家に帰るなり、リヒトの部屋のドアを開けた。

ノックを忘れたけれど仕方ない。

今はそんなことどうでもいいのよ。


「リヒト!なぜ私を置いて帰ったの!?それに、どうしてあなたと同じクラスじゃないのよ!」

「なんだ」


制服を掛けていたリヒトが振り返る。


「あなた私の護衛でしょう!どうしてそばにいてくれないの?私が今日どんな目にあったのか知っているの!?」


最後は涙声になってしまった。


「何があったかは知らないが…。甘いのはあなただ。人間界で普通の人間として暮らすことを望んだのはリラだろう」

「だって…!」


私はリヒトに駆けよって、両腕に縋るように目線を合わせた。

タメ口になったリヒトは、いつもより怖く見える。


「私ね、今日、それにしては可愛いって言われたのよ!それにしてはって何よ、私のことをそんな風にいうなんて!」

「それは…褒め言葉じゃないのか」

「こ、こんな屈辱的な褒め言葉があるかしら!」


こんなこと、今まで一度も言われたことがなかったのに!

リヒトは溜め息をついて、私の手を自分の腕からはがした。

そんなに冷たい瞳で私を見ないで……!


「それは我儘だ。あなたは今まで身分社会の上流にいた、しかし、人間界ではそれは関係ない。他の生徒と同じ、農民になったとでも思うといい」


リヒトはそれだけ言うと、ベッドに座って本を読み始めた。


「リヒト!」


私も隣に座る。

どうしてこんなに素っ気ないの……。


「これだけは聞いて。なぜ私とあなたとはクラスが違うの?今からでもいいから同じクラスにして、私のそばに…」

「リラ、いい加減にしてくれ。あなたが望んだことはすべて叶えられたはずだ。我儘が過ぎる」

「ひ…ひどいわ…。あなたがそばにいてくれるから、人間界でも安心できると思っていたのに……」


私はふらりと立ち上がると、ゆっくり歩いてリヒトの部屋を出た。

リヒトが、とても冷たいのは、何かあったからかしら……。

こんな風に突き放されたこと、なかったのに。

もしかして、

今までは魔法界にいて、お父さまの命令があったから私のそばにいてくれたの?

お父さまの目が届かなくなった途端、私から離れていくというの?

溜め息をつきかけて、首をふる。

リヒトに頼らずに生きていけなきゃ、王女の名が廃るわ。

あんなやつ、いなくたって平気よ。

変わりはいくらでもいるし、たまたまそれがリヒトだっただけ。

あんなに口が悪くて、冷たいひとなんて、どうでもいいじゃない!