まだ一口しか飲んでいない珈琲を、テーブルに置いて。僕はコートを羽織った。


これが、本能だとしたら…



いや、今何も考えられない。考えない。


傘を広げて、走り出す。


大学を通り過ぎて、駅の方面へと向かって。


もし、あの日が偶然じゃなかったとしたら。

僕は今行かなきゃいけないと、直感した。

偶然の確率の方が、どう考えても大きいのに。


けれど、やっぱり必然だと静かに思った。

こんな、雪の中。


「あなたは、学習能力がないんですか…」


「しゅ…俊介っ?!」


雪化粧を纏った、瀬戸さんはあの日と同じ場所にいた。


僕は瀬戸さんの頭についた雪を払う。


「何してるんですか、傘もささないで!」


「…忘れた」


瀬戸さんは、その後小さな声で僕の名前を呼んだ。


「会いたかった…」


「とにかく、僕の家に来てください。あ、いやその…変な意味はないので誤解はしないで下さい。そのままでは…」


カゼを引いてしまいますよ、と言う前に。


瀬戸さんが僕に抱きついた。



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