次の日は、元々瑛二さんと共に、結婚式場の下見に行く予定だった。
お互いに県庁関連の人がたくさん来てくれる。
だから、この近くでは有名な大きなホテルで式を挙げることにしていた。

式の招待状もすでに準備してあり、来週には発送する予定だ。

一人暮らしをしているマンションまで、瑛二さんが車で迎えに来てくれたその日―――



「あれ?この傘、瞳子の?」


「あ、えと……。違うの。……親戚の叔父さんが、忘れていったの。」


「へえ。昨日、だから会えなかったんだね。」


「あ、……うん。」


「そっか。言ってくれればいいのに。」


「言わなくて、ごめん。」



俯くと、胸に押し寄せた罪悪感に押しつぶされそうになる。

瑛二さんに嘘をついてしまった―――

本当のことを話すのは、どうしても憚られて。



「じゃあ、行こうか。式場の下見。」


「ええ。行きましょう。」



差し出された手を、ぎこちなく握る。
いつから、こうなってしまったのだろう。

こちらを振り返ることもなく、車までずんずん歩いていく瑛二さんの背中を見つめる。
ほっそりしている彼の薄い背中。
その背中に、いつの間にか掛川さんのグレーの背広を重ねている私がいた。

ぶんぶんと首を振る。

違うんだ。
私は幼い頃から父親がいなかったから。
だから、父親くらいの年齢の人に安心感を覚えてしまう。
そして、憧れる。
それは、好き、とはまた別の感情なんだ。

だから、私が幸せになる道は―――

私は、瑛二さんの手をぎゅっと握った。
彼が、少し振り向く。
私は、綺麗に笑顔を浮かべて。

瑛二さんに自分からキスをした。

少し驚いたような彼も笑顔になって、私にキスを返してくれる。

これでいいんだ。
これが正解なんだ。

そう自分に言い聞かせながら歩く私は、傍から見たら幸せそうに見えたかもしれないけれど―――