次の休みに、私は掛川さんの家に行くことにした。

お土産に、アンジュールのケーキを持っていく。
チーズスフレと、イチゴトルテはもちろん、他にも何種類か。

掛川さんの家が近付くと、何だか緊張してきた。



ピンポーン。



「はい。……ああ、瞳子さん。さあ。」


「おじゃまします。」



いつもよりラフな服装をした掛川さんが、扉を内側から開けてくれる。
背広よりも若く見えて、私は思わずどきっとしてしまう。



「薫さん、瞳子さんが来てくれたよ。」


「ほんと?」



奥からトコトコと走って出てくる薫ちゃん。



「瞳子さん!」


「薫ちゃん。元気だった?」


「うん!」



掛川さんと薫ちゃんが並ぶと、やはり目がそっくりだ。
私はなんだか、微笑ましい気持ちになる。



「これ、どうぞ。」


「え、気を遣わなくてよかったのに。……あ、アンジュールじゃないですか。」


「そうですよ。」


「あそこ、テイクアウトなんてできるのですね。知らなかった。」


「え、知らなかったんですか?」


「知りませんでしたよ。こんなに近くに住んでいるのに。」



掛川さんが、嬉しそうにケーキの箱を受け取ってくれる。



「雪人さん、それなあに?」


「瞳子さんが、ケーキを買ってきてくれた。」


「ほんとう?」



あれ、と思う。
薫ちゃん、お父さんのことを雪人さんって呼ぶんだ。
そう言えば掛川さんも、薫ちゃんのことを薫さんって呼んでいた気がする。

掛川さんが50代半ばだとすると、薫ちゃんは随分遅いお子さんだ。
だからこそ、掛川さんと薫ちゃんの間には、何とも言えない温かい空気が流れている。
それは、よそ者の私をも受け入れてくれるような、温もりに溢れている。

私はそれから、掛川さんと薫ちゃんと共に、まるで本当の家族のような時を過ごした。
久しぶりに、心が満たされた気がした―――