この間から、見知らぬ姉ちゃんが近所にいるんだ。

俺様は、あの姉ちゃんは絶対に魔法使いだと睨んでいる。

あの魔法使いの正体を突き止めるべく、俺様は探偵団を結成した。
メンバーは、団長の俺様、相棒の犬のフラット。
道具として揃えたのは、変装用の帽子、マスク、虫めがね、うちの姉ちゃんの魔法の望遠鏡。


朝10時。その魔法使いは図書館に行く。
きっと、この町のことを調べて、みんなに魔法使いだと知られないようにしているんだ。

11時。急に紙を取り出して何かを書き始めた。きっとこの町の秘密をつかんだんだ。やばいぞ。

12時。図書館の公園でお弁当を広げている。
ここで、姉ちゃんの部屋からこっそり持ち出した魔法の望遠鏡の出番だ。
どれどれ、弁当の中身を……。
サンドイッチだ!しかも、俺様の大好物、卵とシーチキン!クソ、俺様が見ていることに気づかれたのか??……おっとよだれ。
ふん、俺様だって当然おにぎりの用意がある。サブ団員にしてやった、母ちゃん手作りだ。
中身は……梅と昆布か……まあ、普通だ。

昼の2時。図書館の主、健兄ちゃんが出勤してくる時間だ。
俺様はこの兄ちゃん、嫌いだ。ちょっと俺様とキャラかぶってるし、あの魔法使い姉ちゃんになれなれしくするしな。

あれ?もう4時。2時から4時までの俺様の記憶がない。くそー、魔法使いめ、俺様の記憶を消したな!

魔法使い、どこだ?
いたいた。あ、そんなにたくさん本抱えたら落とすぞ!ほら落とした。ああもう、探偵なんかやってなかったら手伝ってやるのに。
また、そんな持ち方したら、前が見えないだろ?ほらぶつかった。
もう、あいつ、ばか?ばかなのか?
しょうがねえなあ。

「て、てつだってやる」

あーあ、見てらんなくて、思わず手ぇ出しちゃったよ。

「やさしいのね、ありがとう」

そ、そんな顔で笑ったって、俺様は心を乱したりなんか、し、しないぞ。お、お前の正体だって、突き止めるんだからな。


「健ー」

こ、この声は!やべえ、姉ちゃんだ!

「この本、ここに置くからなっ」

「ありがとう」

逃げろ!
……ん?なんだ?魔法使いのやつ、健兄ちゃんとうちの姉ちゃん見て変な顔してるぞ。そうか、魔法をかけるつもりだな!
そうはさせないぞ!健兄ちゃんを突き飛ばしてやれ!

ダダダ ドカン!

「いった!何よ健、急にぶつかってこないでよ」

「わり……ってなんだよ、勝太、おまえのしわざか!」

うわわ、健兄ちゃんが、姉ちゃんにぶつかっちまった、逃げろ!

「まて、勝太!」

捕まっちまった!

「勝太!あんたこんなところで何やってんのよ。あ、私の望遠鏡!勝手に持ち出したわね!」

「ね、姉ちゃん 、ごめんなさい」

うわわ、魔法使い、こっちに来るぞ!

「由香の弟さんだったのね」

「桃香、いたのね。なに?うちの弟、桃香になんかした?」

「ううん、凄くいい子だったわ。本、運んでくれたのよ」

「でもお前、あの辺りで2時間ほど寝てたじゃねえか。昼寝は家でやれ、家で」


あーあ、俺様の計画は失敗。相棒のフラットにもなんの役目も与えてない。
でも俺様はあの魔法使い、桃香のことを調べるのをやめないぞ!桃香はいったい何者なのか、この桃香を見ると心臓がドキドキするのは一体なんなのか。きっとなんかの魔法に違いないんだ。

見てろよ桃香。こっち見て笑うんじゃねえよ。

おしまい