自分の家庭環境を語るのは、別に辛くはなかった。
今さら諦めているし、何かの変化を求めているわけでもない。
相手の反応だって、気にしない。
だけどやっぱり彼の驚く顔は、とても気になった。
私みたいな家庭を、見たことも聞いたこともなかったんだと思う。
絵に描いたように幸せな家に生まれた彼には、きっと分からない。別に、分からなくていい。
私が彼の育った家庭を分かればいい話でしょ。
もう、私の家のことなんか考えなくていい。
私は私で、勝手に幸せになればいいんだから。
だから…そんなに気難しい顔をしないでよ。
「家族を大事にしてない女だってショックだった?」
「違うよ。俺の家族はすごく大事にしてくれたじゃないか。
ただ…驚いているだけだよ。全部初めて聞いたから」
「秘密にしてたのは…謝る」
「言いにくかったんだろ?
そういうことは誰にだってあるよ。
ちゃんと話してくれてありがとう。
でも…会わないのは納得できない」
…どうして?
あんな人に、なんでわざわざ挨拶なんてしないといけないの?
関係ない。
私が結婚しようが、あの人には何も関係ない。
どうせ何も、言わないんだから…
反対も賛成もしないなら、いっそのこと放っておけばいいの。
意見がないなら、聞かないでいればいいの。
どうしてそんなに、お父さんを大事にしようとするの…?
「朋香をずっと大事に育ててきてくださった人なん…」
「やめて」
思ったよりも低い声がでる。
「大事にされた覚えはない。
育ててもらったとも思ってない!」
「朋香…」
ねぇ、呆れた?
口をつぐんだ彼に心のなかで呟く。
最低だと、思ったかもしれない。
けどこれが、私の本音なの。
私が、大事にされたことがないんだよ?
ならあなたが、大事にする必要なんてない。
「たとえ、朋香がお父さんを嫌っていても、それでもいいよ。
でも会わなくちゃいけない。
それは礼儀だから」
そうだろ?と真っ直ぐな目を向けてくる彼。
嫌だ…そう言葉に出すのも疲れてしまった。
やっぱり、会わなきゃいけないの?
お父さんに会わないで、結婚することは…
できないの?

