先週、彼の実家に行った。

東京の郊外の大きい一軒家だった。


玄関で迎えてくれたお母さんは、綺麗だけど、どこかホッとするような温かみを持つような人だった。

正直、彼の家はお金持ちだからお母さんはこう…ギスギスした感じなのかなって、思っていたんだけど。

大きい一息をつきそうになったのを、我慢したのを覚えている。


お家の中に入って、広すぎるリビングのソファーでお母さん手作りのロールケーキを頂いた。

その時、二階の方から降りてきたのは、彼の弟さんだった。
彼によく似て、ハンサムな顔立ちだった。

弟さんも一緒に、ロールケーキを食べながらたわいもない話をした。



こんなことって、本当にあるんだ。
私は、終始そう思っていた。

母親の手作りのお菓子を食べながら、話したり。テレビを一緒に見たり。

そんなのは、ドラマや映画の中だけの世界だと思っていた。

お金持ちだから…なのかな。


いや、違う。
普通の家はどこだって、こうなんだよね。

こんな風に心から楽しんではいなくても、一緒にリビングにいたりはするんだよね。


それを不思議に思う私が、普通じゃないだけ…なんだよね。


夕方になって帰ってこられたお父さんは、不動産屋の社長らしく。
だけどそんな堅苦しい感じでもなく、お母さんのように温かみを感じた。

この家族は、綺麗だな。

私はひとり傍観者のように、見つめていた。

家族が話す内容は、下らないものばかりなのに。

こんなにも楽しそうに笑いあえている。
何も、誰も、面白いことなんて言っていないのに。

私は口角を上げていることに必死だった。


本当は、泣きたい気分だった。

私もこんな家に生まれたかったと。
泣き叫びたかった。


でも、泣かなくていい。
私はこれから、この人たちの家族になるんだから。

家族団らん、というものに慣れて、こうして無理して笑うこともきっと無くなる。

今はまだ、始めだから。


温かい家庭に、これから私は入っていく。



その前にひとつ、乗り越えなきゃいけない壁があることが、私の心を支配していた。