「……嘘、だろ」
ふたりの馴れ初めについて語る父に少年は抗議の声を上げそうになる。
「婚約者なんて聞いてない」
そもそも、婚約していたことすら知らなかった。
そんな少年の様子を隣にいる社員は不思議そうに見詰める。
「もしかして、ご存知なかったんですか・・・? 」
少年は頷くと驚いた顔をする社員を睨み、責めるように言った。
「貴方は知っていたんですか」
彼は当然のように頷くと然もありなんとでも言うように続ける。
「我が社は国内屈指の企業ですので当然お嬢様、お坊っちゃまにも婚約者がいるのです」
社員はあらかじめ用意していたような調子で淡々と告げ壇上に立つ少女に目を向ける。
「本日のパーティは、お嬢様の婚約パーティなんですよ」
その瞳には父に対する憧憬と会社に対する誇り、そして少女に対する執着のようなものが入り乱れていた。
「お坊っちゃまの婚約発表は恐らく、もう少しあとかと。お嬢様は嫁がれるので誕生日の次の日に発表したんでしょうね」
壇上に立つ少女は恥ずかしそうに婚約者を見詰め、時折意味深な微笑で少年達のいる方を見る。
「……嫁ぐ」
ぼそりと呟いた声は隣に座る社員には届かず、父が閉めの口上を述べ婚約発表は終わった。

