闇の中で束の間の夢を




少年の頬から伝う涙は傷にまみれた少女の顔に落ち安らかな表情で眠る少女を悲しみに濡らした。



暫くして、漸く泣き止んだ少年は涙でぐちゃぐちゃになった自分の顔と少女の顔を拭き、少女を地面へと寝かせる。



「……大丈夫だ。・・・俺も、お前の元へ行くから」



普段から護身用に持ち歩いているナイフを取り出しゆっくりと正眼に構える。
切っ先は一分の狂いもなく少年の胸元、心臓の方へ向きその静謐な刃で少年を睨む。



少年は何回か深呼吸をするとやがて意を決したように刃先を胸元に突き刺す。
毒々しいぐらいの朱が少年の手を汚し、地面で横たわる少女のドレスに滴る。



(嗚呼、そうだ)



先程拾った髪飾りを薄れゆく視界の中で探し少女の頭に飾る。少女の小さな頭に飾られたそれは今まで見たどんな宝飾品よりも気高く、そして美しかった。



少年は段々と遠のく意識の中で少女と手を繋ぎ指を絡める。



(・・・そうか、あの手紙は・・・)



少女の机にあった宛名のみが書かれた手紙の真意を少年は悟り、思わず破顔する。



「……俺も、愛してるよ」



大好きな妹、そう心で言うと繋ぐ力を強くしゆっくりと目を閉じる。



いつの間にか夜鳴き鳥達は囀り始め、鳥達の声以外何の音もしない静寂に、ふたりの兄妹は束の間の夢を視た。






-The End-