「可笑しい」
父が帰宅してから2時間、少年は痺れを切らしベッドから立ち上がった。
普段ならもうとっくに眠っている時間だというのに。婚約者の家にした忘れ物が中々見付からないのだろうか。それとも帰路の途中で事故にあったのだろうか。
一度考え始めたら不吉な想像は止まらず、居ても立ってもいられなくなった少年はローブを羽織り部屋から出ようとする。
(……あれは何だ? )
机の上に何やら手紙のようなものを見た少年は悪いとは思いつつもその手紙を手に取る。
どうやら書き掛けのものらしいそれは
『Dear. 愛する貴方へ』
というところで終わっていた。
少女の筆跡で書かれたそれは便箋の下半分が薄黒く汚れており、彼女が泣きながらこれを書いたことを彷彿させる。
「探しに行こう」
もしかしたら、いつかのように少年が探しに来るのを待っているかもしれない。
あの時は待ち疲れて森で眠ってしまっていたが、今日もまた……
「……森・・・? 」
その考えに、少年はある考えたくもない可能性に思い当たった。

