深く暗い森の中、少女はひとり崖に立っていた。
夜鳴き鳥と少女の呼気だけが響く静寂で少女は眼下に広がる風景を見据える。
果てしなく広がる闇はまるで少女のこれからを予測しているようで、体の芯がすっと冷えて行くのを感じた。
少女は闇を見下ろしゆっくりと息を吐く。
今日のパーティで少年は初めて少女の、そして自分の婚約を知った。
少女は数年前に自分の婚約を知ったが少年は今日初めて婚約を知ったのだ。
いきなり、しかも自分の誕生日の翌日に婚約を知った少年は、一体どんな気持ちだっただろう。
発表の後、咎めるように少女を睨んだ少年はひとりで先に帰ってしまった。
「……私は」
本当は結婚なんてしたくない、漏らした言葉はやがて涙となり少女の頬を伝う。涙は止め処なく溢れ、少女のケープをしっとりと濡らした。
「…………ごめんなさい、お父様」
暫く流れるがままに涙を流した少女は意を決するように眼下を見据える。
深い、夜よりも暗い闇が彼女を挑発するように揺れると少女はその中心に向かって飛んだ。

