闇の中で束の間の夢を




カチャリ、と玄関の開く音で目覚めた少年は部屋の扉を開けエントランスを覗く。



「……嗚呼、先に帰っていたのか。ただいま」



父はパーティに少年がいたことなど知らない風に言うとメイドにコートを預ける。



「……」



一緒に婚約者の元へ行っていた少女はどうしたのだろう、と疑問に思った少年は口を開き掛け



「忘れ物をしたから取りに行ったよ。何、心配しなくてもすぐに戻って来るさ」



少年の心情を読んだように父は言うと書斎へと入ってしまう。



「忘れ物……? 」



普段の少女らしくない行動に少年は首を傾げる。普段の少女なら絶対ひとりでは行かず父とともに行くはずだ。



「……」



婚約発表が終わってからずっと抱いていた不安感が徐々に現実味を帯びてきた。