闇の中で束の間の夢を




婚約者への挨拶も終わり少女は父と並んで家路に着いていた。



「……」



先程から少年のあの視線が頭から離れない。



『なんで言えなかったんだ』



少年に言われた言葉が少女の胸中を埋め、婚約者の家にいる間もずっとすっきりしない思いだった。



「・・・どうか、したのかい? 」



俯いていたからだろうか、父は怪訝そうに言うと少女を見詰める。その視線に言い様がないぐらいの禍々しい情を感じた少女は内心思っていることをおくびにも出さず微笑んだ。



「……いえ・・・ただ、先程出て来る際忘れ物をしてしまったと思って」



「それは大変だ。……わたしも取りに」



大丈夫、少女は父の言葉を遮ると小さく深呼吸をし



「大丈夫ですよお父様。私ひとりで行って参ります」



微笑とともに言うと先に帰っていて欲しいとだけ告げ来た方へ戻る少女。






父は最後の最後まで、娘の覚悟に気付かないでいた。