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「あ、いたわ! あそこよ!」
「白馬様ー!」
「…っ、まだ追いかけてくるし…」
──その日は中学の卒業式だった。
学ランの第二ボタンをなんとか、とかいう女子たちの訳のわからない風習のせいで、
俺は帰るのもままならないほどに校舎内を追いかけ回されていた。
なぜかと言うと、校門前は下級生が見張っていたから。
……俺、いつになったら帰れるの。
早く帰って寝たいんだけど…
そんな事を考えながら、思い出に浸る暇もなく
校舎内を走っている時だった。
「ふべっ」
腹にドンッと軽い衝撃が響いたかと思うと、
短く聞こえた女の悲鳴…とは言い難い変な声。
俺にぶつかった拍子に倒れそうになったその女を反射的に手で支える。
と、抱きとめる様な形になってしまうわけで…
嗅ぎたくもない女の香りがする。
でもその香りは、ツンっと鼻につくような香水の匂いではなく
ふわっとした、シャンプーのような匂いだった。

