「じゃあ、僕が合図したら入ってきてください」

そう言って、教室に入っていた気弱そうな男性は、この1年A組の担任だ。
この五月という季節外れな時期に転入してきた私は、いろいろ噂されているらしい。

やれ、噂の転入生は前の学校で退学になったとか。
やれ、噂の転入生はすごい美人だとか。
やれ、噂の転入生はすごい問題児だとか。

まあ、普通に全部間違ってるわね。
まあ、すごい美人ではないにしても、普通よりましくらいのレベルかしら。

「あ、あの、花鳥院さん……入って来てください」
「はい」

ドアから顔をのぞかせてそう言った山口先生――――担任のことよ――――に返事をして、私は教室に足を踏み入れた。

すると、あれだけ騒がしかった教室内は一瞬で静まり返った。

「自己紹介を……」
「あ、はい。すみません。
聖フラントシール学園から来ました、花鳥院椿です」

私が挨拶すると、静かだった教室内は一気にわあっ……!と盛り上がった。……どうしたのかしら?
ちなみに、聖フラントシール学園から来たのはもちろん嘘よ。
情報を怪しくない程度に操作して、学長にお金をチラリズムしただけよ。……ワイロ?なんのことかしら。

「すごい綺麗ですよね!彼氏とかいるんですか!?」
「ばっか、何聞いてんだよお前は!こんな美人なんだから、いるに決まってんだろ!」
「うわー、すごいキレー」
「……あたしも、自分で自分のこと美人なほうだと思ってたけどさ……うん。なんていうか、次元が違うよね」
「あー、わかる。学校一美人の川村さんが、じゃがいもに見えてくるレベルだよね」

あら、大げさじゃない?
私そんなに美しくはないわよ?
まあ、どれだけ多く見積もっても、中の上ほどだと思うわ。

「……先生、私の席はどこでしょうか?」
「一番後ろの、窓際から二番目の席ですよ。……と、隣の席が空いてる……席、です」
「ありがとうございます」

「「いやぁぁあああ!!!」」

すると、クラスの三分の二ほどの女子の悲鳴がした。
……どうしてなのかしら?