「……泣くときくらい、声をあげたら?」


寝たふりをしながらも、思わず口をついて出た言葉。誰もいなかったと思い込んでいた桃花から驚いた気配がしたけれど、それより一人で泣くなと言いたかった。


けれど、たぶん。桃花はよく知らない相手から慰められることをよしとしないだろう。

誰かに頼ることや甘えることが下手な彼女は、その辺りにいる女性より遥かに生き方が不器用で――だからこそいじらしくてならない。


どうして、そんなに何もかも一人で抱え込もうとするんだ? 暗い過去も、両親の心中に近い死も。彼女は自分で背負い、一人で何とかしようとしている。
もっと、逆らったっていい。理不尽さに否を突きつけ、自分の意思を貫き抗えばいい。君にはその権利があるのに。


なのに、なぜ? どうしてそんなに全てを諦めたように、流されようとしているんだ?


胸の内に燻っていた苛立ちから、女の子の件に託つけてつい彼女を責めてしまったが――本当ならオレが責められるべきではないか。こんなのは単なる八つ当たりだ。


想定外にいつまでも来ない桂木に焦りを感じ、桃花の体調を考えて眠りに入った彼女をそっと抱きしめる。


――軽い。


ちゃんと食べてるはずなのに、何でこんなにも軽いんだ? 眉間に力が入ったオレは、彼女が身動ぎをするまで身体を密着させ、ぬくもりを与え続けた。