「アルベルトが倒れたのを拾った翌日に来たのよね」
雪菜が懐かしむように目を細めて川面を眺める。きらきらと輝く流れは変わらないが、河川敷は改修の折に整備されつつある。木は斬られ草の生えた場所はコンクリートで覆われて、確かに景観はよくなり歩きやすくなった。
けれど、雪菜と過ごしたあの雑然とした場所の方が私には何倍も魅力的だった。
川に入り水に濡れながら笑いあったあの日。見知らぬ草花を愛で、鳥を観察し飛んできた虫に慌てた私を雪菜は笑った。
あの日、私は彼女に大切なことを教えてもらえた。
そこに在るものに、何一つ無駄なものはないのだと。
人が不要だと安易に切り捨てるものの中にも、価値はあるのだと。
それまで無駄は極力排除し効率化を最優先にした私には、ひどく衝撃的な体験だった。 自分の今までの価値観が根底から覆るほどに。
それまで、自然は“征服し管理支配するもの”と考えていた私は、雪菜との出逢いですっかり考えを入れ替えることとなったのだ。
人との関わりも、そうだ。
無駄な人間はいない。
民は単なる数字を成す記号で、大抵は無駄で無能な人間ばかりとの考えがどれほど傲慢だったか、雪菜は気づかせてくれた。
彼女は、私を“生きた人間”にしてくれたのだ。



