『アルベルト』


珍しく、カイ王太子殿下が生真面目な顔で私を呼ぶ。

執務が一通り終わり、スケジュールの残りは無かったはず。いつもならばカイ王太子もまっすぐに妃や子ども達のもとへ帰るが、今日はどうやら違ったらしい。


ここ何日か王太子からは物言いたげな視線は感じていたが、私はわざと素知らぬふりを通していた。彼の言いたいことなどよく解る。だが、わざわざプライベートの問題を自ら王太子に話題にするほど馬鹿なつもりもない。


カイ王太子がこうして人がいない時を見計らって話を切り出すということは、相当焦れたという証しに他ならない。彼も最近はようやく公私の区別を着けるようになってきたから、よほど腹に据えかねたらしい。


『はい』


私はいつもと変わらない顔で王太子に応じる。カイ王太子は思いっきり眉を寄せると、椅子から私を見上げた。


『まだるっこしいのは嫌だから単刀直入に言うが、アルベルト。おまえには恋人がいると聞き及んでいる』

『はい』

『はい、じゃない!』


バン、とカイ王太子は執務机を叩いた。


『聞けば、もう既に5年も別れ別れのままだと? なぜ、こちらへ迎えない!? そんなに長い間放置して心配にならないのか? 』


やはり、と私は予想通りの態度に内心苦笑いをした。カイ王子と妃の桃花妃殿下は別れ別れになったのは2年ほど。しかし、今は何人ものお子に恵まれ幸せに過ごされている。


彼にすれば、自分も幸せならと周りも幸せにする使命感を感じているのだろう。


しかし、と私は思う。


人がそれぞれ違う人間なように、幸せの形もまた千差万別なのだと。