自分の感情というものは仕事に不要。常に冷静でいなければ、公平で客観的な判断は難しい。主人たるカイ王子を守る。それがひいては国の将来のために結びつくのだ。それゆえ、甘い感情論や私情は排除する。
そうやって本当の自分を凍らせ、冷たい鎧で覆う私は他人から見ればさぞかし融通が効かない頑固者。冷静沈着でつまらぬ男だったろう。
特に、厳しく冷たく当たったこの女には。
「あの……?」
目の前に突然現れて、困惑するのはとてもよく解る。何せ私は彼女には突き放す態度しか取り続けて来なかった。嫌いこそすれ、歓迎などしないだろう。
「突然の訪問をお許しください。殿下には命じられておりませんが、わたくしの独断でお話をさせていただきたいと思いまして」
こんな時間になってしまったのは仕方ない。彼女は正社員として食堂で働いた後、調理専門学校の夜間コースで学んでいる。その多忙さから、捕まえるには夜遅く訪れる必要があった。
ただ今、午後11時過ぎ。大して親しくもない女性を訪うには非常識な時間帯だが。彼女は私の顔を見てからやや躊躇いがちに「それでは近くのファミレスで良いですか?」と提案してくれたので、それに1も2もなく頷いた。
「ありがとうございます……桃花様」



