『お母様、私は家には戻りません。ですが、迎えたい女性はいます。ですから、申し訳ありませんが今回の縁談はお断りして下さい』
私のきっぱりした言葉を聞いた母は、一瞬理解出来ないとでも言うように目を見開いたが。次にゆるゆると口元を緩めて笑んだ。
『まあ! アルベルトにそんなお嬢さんがいらしたなんて。今の今までそういったお話を聞いた事がありませんでしたから、老婆心かもしれないけれど心配でしたの』
もっと食べなさい、と母はお手製の料理を取り分けて下さる。母は公爵夫人というのに給仕をメイドに任せず、手ずからされる。家族として触れ合える数少ないこの時間が私は好きだった。
『確かに、アルベルトほどの堅物はなかなかいなかったからな。フェルナンドもカールも学生時代に一度や二度は恋愛沙汰があったものを。お前だけは清々しいまでに清廉潔白だった』
父があごひげを撫でながら苦笑いするのも仕方ない。事実、私には今まで心を動かされた女性が居ない。
どんなに高貴な身分の女性でも、国で屈指の美人であろうとも、たぐいまれな才能があり成功した女性も。私の琴線に触れることはなかったのだが。
なぜ、数時間ともに過ごしただけの雪菜には衝動的な想いが込み上げてくるのだろう?
決して、美人とは言えない。カジュアルやラフと言えば聞こえはいいが、まったく色気のないシンプルな格好。化粧の1つもしない女っ気の無さ。
言動だって褒められたものでない。強引で独りよがりで、決してすべてに共感はできなかった。
だが、それでも。
私のなかに、雪菜の全てが焼きついて離れないのだ。
その燻りは、きっと彼女でなければ抑えられないに違いない。



