「本当に捕れたとは……」


私が意外な顔をしただけだからか、雪菜は不満げに口を尖らせた。


「反応うっすいな~もっと、こういうふうに目をまん丸にして。すごい! とか、ぎゃふん! とか言いなよ」

「日本人は驚いた時に“ぎゃふん!”という単語を発するのか?」

「バカか! 物の喩えだよ……ほら、よ!」


雪菜は他のペットボトルに移したオイカワという小魚を、なぜか私へ押し付けるように渡してきた。


中にはエビのような生き物までいる。


「ガキのころ、川の生き物に興味あったんだろ? と、とにかく好きなだけ観察しろよ。あ、後でちゃんと川に帰せよな? 約束だぞ!」


渡されたペットボトルには小さな命が2つ。幼心に抱いた夢が今ごろ実現するとは思わず、無意識に口元が緩んでいたのだろう。


「ああ……ありがとう」


私が微笑みながら礼を言った途端、雪菜はなぜかプイッとそっぽを向いて再び川に入ってく。心なしか耳が赤いが、川面に反射する光で日焼けでもしたのだろう。


「は、反則だろ……あんな顔」


だとかぶつぶつ聞こえてきたが、私の興味は既にペットボトルの生き物にあった。


本来、私はカイ王子と一緒で自然の中に身を置くのが好きな子どもだった。動物博士になりたい、と言った記憶もある。


知らない生き物を前に高揚する気持ちが抑えられない。おそらくヴァルヌスにはいない日本固有種なのだろう。この色彩は婚姻色……ならば雄か。と観察しつつ、記録に残すため夢中でシャッターを切る。


こうして、私は忘れられない時間を雪菜とともに過ごした。


――そして、ヴァルヌスに帰ってから気づくのだ。


雪菜の笑顔が決して忘れられないのだ――と。