「あん、どした?」
雪菜の声と頬をつつく感触に、はっと意識が現実に返る。
「いや……何でも。ただ……これを飲んで……幼い記憶を思い出しただけだ」
なぜか、私はポロリと事実を口に出してしまっていた。相手が雪菜だったからか、懐かしい記憶で感傷的になっていたからか。後になってもわからなかった。
「ふうむ……幼い記憶をねえ。ちなみにどんなの?」
「……ヴァルヌスでの菓子屋で初めて買い食いした記憶。王子はとても楽しそうで、私も嬉しかった」
「ふむふむ」
雪菜は近くで腕を組むと、なぜかうんうんと納得したように頷いた。
「よかったじゃん! あんたにもそんな思い出があったなんてさ」
ポン、と雪菜に肩を叩かれた。まったく意味がわからない。
そもそも、なぜ私は彼女へこんなにも素直に話をしているのだ? 話す必要性はまったく露ほどにも無いというのに。
「何もないよりは、あった方がいいって。ガキの頃の想い出はさ……一生もんな宝物さ」
しみじみと話す雪菜は、また遠くを眺めてため息をついた。
「あたしなんかはさ……作りたくても無理だった。産まれた時から親も家族もいなかったし……今まで親しい人なんざできたこともないんだ」
こんな性格だからな、ハハハと笑う彼女が、どうしてだかひどく痛ましく見えた。



